永遠の絆 序幕

 眼下に広がる景色は春の色に染まっている。野原が多様な彩りに満ちているのは、無数の花々が今を盛りに咲き誇っているからであろうか。冬の間は眠りについて生き物たちが活動を始める暖かな時期。人間とて例外ではないらしく、町の方からはざわめきが聞こえてくるように感じられた。
「あぁ……、あれがオーエンの町なのか。あそこに行けば、会える――」
「そうですよ、フェイトさん。私の調査ではあそこの街から信号は発信されています。ここからではちょっと遠いけれど、町に入ればシーカーが案内してくれますよ」
 そう言って手にしている小型の機械をポンと叩いた男性に対し、フェイトと呼ばれた青髪の青年は頷く。

 フェイトは行方不明になっている母親を探すために、自分自身や両親の知り合いに助力を求めいた。 なにせ手がかりはほとんどなく、探す範囲はこの広い宇宙ときていた。独力でなしとげるのはいくらなんでも無理というものである。
 その協力者の一人がフェイトと共にいるウィリアム・ミセッドだ。 未開惑星研究員なる資格を持つ少々――かなり――変わった人物である。 年齢は25歳だと言っていたが、低めの身長と童顔のために実年齢よりはずっと若く見える。 ずり落ち気味の眼鏡が印象的だが、これは伊達眼鏡らしい。
 しかし、その能力は優秀で物理学、生物学、天文学といったものから、宇宙航法、紋章術理論というもの。 さらには野外生存技能サバイバル、木工、民俗学といったよく解らないものまで身に付けているようだった。
 彼がハイダでの襲撃の後、母親の乗ったであろうと思われる脱出ポッドを割り出し、その航跡を見つけ出してくれたのだ。 母親の乗ったポッドはハイダを離れて早々に、戦闘により発生した微細な空間のねじれに巻き込まれ、そこから遥か彼方へと飛ばされてしまっていた。 戦闘時のデータからねじれの発生を、さらには跳躍先まで算出した能力は賞賛に値するとフェイトは思う。
 奇しくもその跳躍先はウィリアムが研究をしていた惑星で、現地まで案内をしてくれる運びとなったのである。
 二人の他にも旅の仲間はいる。クォークの小型艇を借り出してきてくれたマリアと、一行の栄養補給を担当するソフィアである。 彼女達は現地人の目に触れぬように街から離れた所に停めた宇宙船で待機している。 宇宙船を放置したばっかりに誰かにぶっ壊され、自分たちも行方不明者になるのは一度で十分だから……。

 フェイトとウィリアムは先程までいた小高い丘から移動し、現在は町の手前にある平原にまでたどり着いていた。花々が咲き乱れるそこはまるで妖精の棲家かようである。フェイトが少し気になったのは、老若男女を問わず花を摘んでいる者が多いことだ。
(いくら綺麗だからって、皆して花を摘むものなのか?)
 不思議に思っていたのが表情に出たのか、かつてこの惑星を研究していたというウィリアムが知識を披露してくれた。
「ほら、あちらの少し開けたところを見てくださいよ。横長の布地が2本の柱の間にかかっていて、それ文字がかいてあるでしょう? ここの言葉で『春祭り ダンスパーティ会場』って書いてあるんです」
「ん……、それだけじゃよく解らないんだけど」
 ウィリアムのいう通り、確かに布に字が書いてある。しかし、それと花との関連性はフェイトには見出せない。
「ここのダンスパーティでは一緒に踊りたい相手に花束を渡します。それを受け取ってもらえたら、カップルが成立するわけなんですですよ。これがプロポーズに発展するケースもありますから、真剣になる人も出てくるんでしょうねえ」
 真剣という言葉とは無縁ののほほんとした顔で言われると、自分までのほほんとしてしまいそうになる。気がつけば町の入り口まで後わずかだ。穏やかな光景に緩みがちな気持ちを引き締めた、が――。
「そうだ! フェイトさん、あなたも花を摘んでいったらどうです? 母君もこちらでの暮らしが長いんですし、きっと喜ばれると思いますよ」
 ズガシャッ!
 にこにこにっこり、そんな笑顔で言われたものだから、呆れた挙句にすっ転びフェイトの顔は激しく地面とお近づきになってしまった。
 土がむき出しの、自然のままの大地。
 ひんやりとした感触が心地良い。
 土にまみれたまま、くすりと笑った。
(母さんの喜ぶ顔が見られるのなら、それもいいかもしれない)
 こんな時に微笑む余裕が持てるようになったのは彼女のおかげかな……そんな事をフェイトは考えた。地球時間にして今から半年ほど前。冬の空の下での出来事に、彼は思いを馳せた――。



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