正義の隠密パルミラ
〜 パルミラがやらねば誰がやる!? 〜

執筆者:ファンさん

それは疾風の様に現れ、悪を蹴散らし、弱者を助ける。そして、疾風の如く立ち去る。
 彼(彼女?) の正体を知る者は誰もいない。しかし、彼は何処からともなく颯爽と現れ、そして戦う。
 そんな彼は、自分の事をこう名乗った!

 正義の隠密 怪傑パルミラ

「っと!」
「……なんだいそれは……」
 ある昼下がりのシランド城の一室。そんな中で、訳の分からない会話が……いや、一方的な言葉が響き渡った。
 其の声の主はかつてシーハーツの敵国だったアーリグリフの漆黒団長アルベルのものだった。
それを聞いていた赤毛の女性ネルは、思わず座っていたイスから転げ落ちそうになるが、何とか体勢を保っていた。
 無理もない。何時もは戦以外には興味を持たず、それでいて阿呆やらクソ虫やら変な言葉を放つ男から、
ひょっこりと現れてすぐにこんな熱血的な言葉を受けるとは思わないだろう。
しかし、当人は全く恥ずかしげもなく、相当真剣なようだ。
「……此処最近、アーリグリフに現れては荒くれのクソ虫共を蹴散らしているって噂の奴だ」
 やっと真面目な話が始まったと思い、ネルは体勢を立て直してアルベルにたずねた。
「それがどうしたんだい? 悪を蹴散らしているって言うのはいい事じゃないか」
「まあな。別に害になっているわけじゃねぇし、俺としては仕事が減っていいんだが……。この名前、気にならねぇか?」
「……正義の隠密、怪傑パルミラ……」
 ネルは復唱し、心当たりを探ってみる。確かに、隠密と言えばシーハーツだし、パルミラもシーハーツ地方で見られる植物だ。寒いアーリグリフでは、珍しい花であろう。という事は、パルミラはシーハーツの人間、そしてシーハーツ軍に何処かしら関係がある人物と言える。
「うん……。一昔前だったらあたしの部下のうち誰かだろうね……。アーリグリフに問題なく潜入できると言えば……だけど、今は斥候を放っていないし、そんな必要もないし……」
 しかし、今の説は、現在では通用しないだろう。今ではアーリグリフとシーハーツは同盟国という事になっている。今では誰でも、ある程度自由に両国間を移動できるようになっているのだ。という事は、自然とシーハーツ内部の人間でなくてもおかしくなくなる。パルミラという名も、ペターニか何かで見たのを切欠につけた名前かもしれない。
「……そりゃそうだな。俺だって、こうやって平然とここへやってこれる。そっちだって、別に支障なく情報くらいとれるんだろ?」
 アルベルも頷きながら納得をした。
「まあね。……で、私にどうして欲しいんだい?」
「……まあ、要は情報が欲しかっただけだ。とは言ったものの、この一件は俺の手には負えねぇ。そもそも、斥候やらなにやら、闇に潜んでいる奴を見つけるなんざ、俺の最も苦手とする事だからな」
 納得である。もし、この男がこんな事に長けていたら、それはそれで感動してしまうかもしれない。まあ、確かな腕は持っているだろうから、斥候の一人や二人、見つけることなど苦でもないのであろうが。それはそれとして、今回の一件はどうにもいかないようだ。
 遠まわしとはいえ、ネルとしてはこの男が頼み事をしようとしているのは何だか気持ち悪い気もしなくはなかった。
「王も、訳も分からぬ奴に城下町の治安を任すのもどうかと思っていてな。一応正体を知りたいらしい。で、それがアーリグリフに害をなすような人物でなければ、公式に、かつ秘密裏に活動を認める。逆に、裏を持つ人間であれば法に照らして処罰するっていう腹だ。まあ、殆ど前者なんだろうがな」
「なるほどねぇ……。まあ、それがいいかもね……」
 ネルもアルベルの答えに納得した。公式に認めてしまえばパルミラも自由に動けるだろうし、それにそれ以外の人物が悪用しようとすれば処罰も簡単になる。
 逆に何か裏があってそのような行いをしていれば正当な理由で処罰できる。要は捕まえる事よりも正体を知る事が重要なのだ。
「で、どうするんだ? 協力すんのか、しないのか」
 やっと素直に言ったか、と思いつつもネルは俯いて少し考え始めた。確かに今、ロメリア女王から休暇を貰い、暇と言えば暇である。しかしながら、やるべき職務はあるし、かといってこの男の要請を黙って受けるのも何か癪に障る気がする。そう思い、ネルは自分らしくない言葉を吐いた。
「報酬は?」
 この言葉を発して、ネルは自分で思わず笑いかけたが耐えた。一方のアルベルは目を点とし、冷や汗を流して呆気に取られていた。
「お前……、何時からそんなに現金な奴になりやがった」
「さあね。でも、これも仕事だろ? 見合うだけの報酬は欲しいのさ」
「……意地悪い奴め……。まあいい、報酬はやる。これだけは約束してやろう」
「本当だね?すっぽかしたら、ただじゃ置かないからね」
「ああ。俺はな、一応約束と時間だけは守る性質でな」
 そういえばそうだ。確かに、この男がした口約束は全て守られていた気がする。まあ、この男が口約束などする事も少なく、守るべきものも少ない所為かもしれないが。それにしても、時間を守ると言うのもこのいい加減そうな性格からは考えられないが……。以前、フェイトらと共に戦っていた時、集合時間丁度に来たときは流石のネルも驚きを隠せなかった。それも、一度ならず何度もだからだ。
 意外とまめな性格なようだ。ネルは少し苦笑した後、アルベルを一度部屋から出て行かせ、そして支度を済ませ、アルベルと共にアーリグリフへと目指した。


そんな最中で、アーリグリフでは今日も怪傑パルミラが活躍を見せていた。
「とう!」
「ぐは!!」
 パルミラの飛び蹴りが、荒くれ者の顔を捉えた。荒くれ者は体液をはきながら、その場に倒れ伏せた。其の横でおびえていた若い女性は、パルミラに駆け寄り、何度も素早くお辞儀をしていた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
 そんな女性の様子にも、パルミラは余裕の言葉を投げかけた。
「お嬢さん、昼とはいえ、このような悪が多数います。今度は、一人歩きにはお気をつけなさい」
 中性的ともいえる、女性とも男性とも取れるような少し高めの声で決め台詞を言った後、素早くその場を立ち去った。その動きは噂どおりの疾風のようなもので、屋根に上るとすぐに見えなくなってしまった。それにもかかわらず、女性はうっとりとした表情でその立ち去っていった屋根をずっと見つめていた。
「ああ、パルミラ様……なんて美しい人なんでしょう……ああ」
 夢見心地のまま、女性はその場を立ち去った。先ほどまで襲おうとしていた男を踏み台にして。


「何時来ても、此処は寒いねぇ……」
 二日後、早馬にてアーリグリフへやって来たネルとアルベル。流石に寒冷地なので防寒服を着用していたが、それでも寒い。ネルは身震いをしながら、敬礼をしているアーリグリフ兵を横目に城の中へと入っていった。其の後をアルベルも追う。
「仕方ねぇだろうが。クソ先祖がこんな場所を選びやがったんだからな……」
 アルベルもこの寒さには流石に参っているらしく、彼もまた身震いをしていた。しかし、城の中へ入れば温度は段々と暖かくなってゆき、過ごし易い環境になっていった。ネルは改めて、暖かい環境にいる事に感謝をした。
「さて、挨拶に行ったほうがいいよね?」
 そう言って、ネルは上の玉座がある上の階を指差した。それを見たアルベルは黙ったまま首を振り、一階にある別の部屋を指差した。
「いや、いい。丁度さっき、目撃したって言う女を連れてきていたらしい。そいつに会うぞ」
「いいのかい? 一応、今は同盟国とはいえさ……」
「昔の敵国に、挨拶抜きじゃ居づらいか? んなもん気にしている暇があったら、頭使う用意でもしやがれ阿呆が」
 最後のアルベルの言葉にむっとしながらも、ネルは一応素直に、部屋に向かおうとしているアルベルの後を追った。
「一応、この一件は俺に全権を任されている。つまり、俺が何をしようと勝手というわけだ」
 ……大丈夫だろうか? 思わず声に出しそうになった言葉を一気に飲み込み、我慢する。だが、ネルは急に不安になってきた。人材不足とはいっても、全権を任せられるものなど、他にもいるだろうに。何もこの男ではなくてもと思った。しかし、能力がないわけではないから、ネルはよしとしようと無理やり納得した。
 さて、そうこうしているうちにアルベルはすでに部屋に入ってしまい、気遣いのないまま閉まりかけていた扉を、別に気にする事なくネルは開いて部屋に入っていった。すると、中には軽装の漆黒兵らしき若い男と、一般市民らしき女性がイスに向かい合って座っていた。机の上には紙と羽ペンが置かれ、そして紙には文字が書かれていることから、どうやら質問が一通り終わった後のようだ。
「あ、アルベル様」
「ユーガ、どうだ。何か分かったか」
 ユーガと呼ばれた男はイスから立ち上がり、そして机にあった紙を渡しながら、入れ代わるようにどいた。
「一応、外見上の特徴及び声の質、場所、時間など聞きましたが……どうやらパルミラは、虱潰しに悪者を倒しているみたいですね」
「めんどくせぇ奴だな……」
「そうでもありません。手立てはしっかり考えてあります。……初めまして、ネル殿。私は漆黒の軍師ユーガと申します」
 ふと、ユーガは手を差し伸べて挨拶をした。ネルはその手を握って挨拶をし返した。
「ああ、宜しくね。ところで手立てって?」
「はい。でも其の前に、もう一度確認しましょうか。リナさん。もう一度、パルミラとであったときの事について話してくれませんか?」
「は、はい」
 リナと呼ばれた女性は、漆黒団長が目の前にいる事で少し緊張した表情を浮かべつつも、昨夜の事について語り始めた。
 彼女によれば、ある昼下がり、バスケットから転がり落ちてしまった林檎を拾おうと裏路地へと入ったところ、 巨漢の男とぶつかり、因縁をつけられて襲われたところをパルミラに助けられたらしい。 其の姿は、マントを翻し、顔には仮面が付けられ、頭にはバンダナが巻かれていた。 何とか目と口とバンダナから少しはみ出ていた金髪が確認できる程度だった。そして体つきは優男とも少し筋肉質な女性ともとれ、そして声も中性的だった。 しかし、其の強さは半端ではなく、あっという間にその巨漢の男を倒しては、決め台詞を残してその場を去ったらしい。 何ともまあ、どこぞの小説か何かに出てきそうな正義の味方である。 勿論その後、彼女がパルミラを見ることはなかったが、彼女のようにパルミラに助けられた人が昨日もいたらしい。無論、証言は同じだそうだが。
「そういえば、怪傑パルミラっていつごろから現れたんだい?」
「報告が入ってきたのは3ヶ月前ほど。つまり、同盟締結よりも、そして卑汚の風事件よりも後となります」
「と、そういうことだ。……さて、ご苦労だったな、もう帰っていいぞ」
 と、アルベルは会話を少し強引に纏めると、リナに帰宅を許可した。リナは緊張から解け、ほっと一息ついた後、ドアまで歩き、一礼をしてその場から立ち去った。そんな様子を、意外そうな表情でネルは見ていた。
「何だ?」
「い、いや……なんでもないよ」
 アルベルはネルの表情を見て、少し眉間に皺を寄せながら聞いた。ネルは慌てて手の平を横に振りながら誤魔化した。とはいえ、アルベルも何の事かは分かっているらしく、眉間を押さえながら言った。
「俺だってな、あのくらい出来る。なりふり構わずクソ虫やら阿呆やら言うと思っていたか?」
「うん」
 ネルのあまりにも素直な答えにアルベルはその場からずっこけそうになったが、机を掴み何とか持ちこたえる。そんな様子を見て、ユーガは一人笑っていた。
「アルベル様、無理がないですよ」
「うるせぇ、阿呆。……で、お前の手立てってなんだよ?」
 アルベルは座りなおし、そしてユーガに問う。ユーガは一度手をパンと叩き、そして説明を始めた。
「パルミラは悪者が誰かか弱い人を襲うとき、必ず現れます。しかし、逆に言えば平和な時は何処にも姿を現さない。ならば、餌をまくのが一番かと。つまり、お二人に悪役を演じてもらおうという事ですね」
「成る程な。……だが、二人?」
「わたしも、という事かい?」
 アルベルとネルは意外そうな顔でユーガを見ていた。ユーガは笑みをそのままに頷いた。
「ええ。ネル殿が演じても良いのですが、もう少しいい役がいるのですよ。……入ってください」
 ユーガが扉の向こうへ声をかけると、一人の女性が入ってきた。少し華やかな格好で、綺麗な髪。そして、何よりも高貴な雰囲気がある其の女性は、ネルがよく知る人物だった。
「ロ、ロザリア……!?」
 現在はアーリグリフの女王という事も忘れ、ネルは驚いた様子で彼女の名を叫んだ。
「な、何やってるんだい!? もしかして、餌って……」
「ええ、女王陛下です。……あ、勘違いしないでください。陛下が自ら志願したのですから」
 始めは平然と言っていたユーガだが、拳をわなわなと震わせてユーガを見ているネルを見て、慌てて弁明した。
「そうよ、ネル。ユーガさんたちの話しを聞いて、私が志願したの。ネルだと、その怖い目で悪者が近寄ってくる雰囲気ではないでしょう?それに、か弱くも少し見えないし……」
「……ぐ」
 あまりの幼馴染の素直な言葉に、ネルは言い返す言葉がない。
「でも、危険じゃ……」
「襲うのはネル達でしょ? だったら危なくないじゃない。それに、あの人のお役に立てるなら、私だって協力したいわ」
 最後の希望も断たれ、そしてロザリアの意思の強さにネルは負けを認め、項垂れてしまった。つまり、彼女の協力を認めるという事だ。
「さて、上手くまとまったところで、早速準備に取り掛かりましょうか」
 こいつ……意外と策士じゃないか、とネルは思いつつも為すがままにアルベルと共に別室へと移った。そこには一人の男と一人の女がイスに座って待機していた。両方とも柄が悪そうで、少なくとも城働きをしているような人間ではなさそうだ。
「紹介します。今回の準備を手伝ってくれるロレン殿とリヒュー殿です」
「宜しく!」
「……宜しく」
 リヒューは元気良く、そして対照的にロレンは無愛想に挨拶をした。そんな彼らだが、良く見ると顔の刺青が同じだった。恋人同士か何かだろうか?
「あ、ああ。宜しく……」
「ふん……」
 そんな彼らに押されたか、ネルは少し苦笑いしながら挨拶を返した。それとは全く逆にアルベルは無愛想に鼻を鳴らしていた。
「彼らはこの近辺で名を馳せている山賊の頭領と、其の妹です。普段は我々と敵対同士ですが、今回の任務には最適だろうと思い、協力を要請したのです」
「楽な仕事の上に、金ももらえるって言う話だし、それに楽しそうだしな」
 ユーガの説明に、リヒューがケラケラと嬉しそうに笑いながら私情を付け足した。そんな様子にネルは呆れた表情を浮かべて苦笑していた。
「ではアルベル様はリヒュー殿が、ネル殿はロレン殿が仕立てをします。ネル殿は奥の部屋をどうぞ」
 ユーガに促され、ネルは奥の部屋へロレンと共に入っていった。
「じゃあ、改めて宜しくね。ロレンさん」
「ああ。ところで、あんたはあのクリムゾンブレイドのネルか?」
「……まあ、そうだね。それがどうかしたかい?」
「いや、あんたもこういう小さな仕事をするのかと思ってな……。少し、聞いてみたかっただけだ」
 ロレンは何かの入れ物から、服を取り出し、ネルに投げ渡す。ネルは急な事にもかかわらず、瞬時に反応してそれを受け取った。
「成る程。お見事」
 これには流石にロレンも驚いたようだ。かなり受け取りづらい場所に投げたつもりだったが……どうやら本物のようだ。ネルも当たり前のような表情をして、渡された服を広げてみる。
「……少しボロボロじゃないのかい?」
 広げた服は裂けている部分が点々とあり、これだけでは寒さを凌げそうもない。
「私が普段来ているものだ。何年も着ているからな……。だが、しっかり毛皮の服を着れば問題ない」
「これだね? 成る程手作りか……これはちょっと欲しいかも」
 それに対して、少し汚れてはいるが、毛皮の服はしっかりとした作りになっていて、そこらで売っている物よりも遥かに暖かそうだ。やはり、厳しい環境の中で生きるにはこういう知恵が自然と身につくのだろう。ネルは改めて感心し、服を着替える。
「……う〜ん、まだ普通だね……」
 確かに少し盗賊らしくなったが、これはこれでお洒落と取れるような気もする。
「そうだな。まだ優しさが残っている。こっちを向いてもらおうか」
 そんなネルのもとへロレンは二つのイスを持って行き、一つはネルに差し出した。ネルはそれを受け取り座ると、ロレンも何かを手に取ってから其の前に座った。それは絵の具のような黒い液体のようなものが塗られた皿と筆だった。
「……なにをする気だい?」
 ネルは何となく予想はついていたが、一応たずねてみた。
「刺青を塗る。私のような刺青は彫ってしまっているから戻せないが、これだったら何日かすれば落ちる。少しくすぐったいのは我慢しな」
「……あ、ああ」
 実はネルはあまりくすぐったいのには耐性がないので、大笑いしないか少々不安だった。しかし、笑えばずれてしまい、変なものになるだろうから、必死に我慢するしかない。
 と、ふとロレンは塗ろうとしたのをやめ、少し下がってからネルに尋ねた。
「座右の銘か何かかあるか?」
「いきなりなんだい?」
「一応、この刺青にも意味があってな。まあ、希望なんかがあればそれに従おうという事だよ」
「へぇ……因みにあんたのは?」
「私と兄は『勇気と武力』。逆さは『蛮勇と暴力』という意味だ。どの刺青にも表と裏の意味がある」
「成る程ね……じゃあ『忠義』なんてないかな?」
「あるが……裏の意味は『盲目』になるがいいか?」
「いいさ」
 最もネルらしい言葉「忠義」は一歩間違えれば「盲目」にもなりかねない。しかし、それでもあえてネルはこの言葉を選んだ。あの戦いで色々な事を学び、そして失ったものも多い。だからこそ、改めてこの言葉の意味を理解した。だから、「盲目」にはならない。そういう思いを込めての事だった。
「ではいくぞ」
 改めて筆に汁をしみこませ、滑らかに眼を瞑ったネルの顔へ模様を描いていく。頬の辺りを渦巻きを描くように描き、そしてそのまま瞼へと線を延ばす。その幾何学的な模様は奇妙にも、そして何処か力強くも感じた。
 ロレンは模様を調整し、少し乾かした後、ネルの肩を叩いた。
「もういいぞ」
「……ん。へぇ……これが」
 手鏡を渡され、ネルは自分の顔に描かれた模様を見て、少し不思議な気持ちになった。施紋にも見えなくもないこの模様は、彼ら独自のものだというのだ。
 世界は狭い様で広い。そう改めて思った。
「さあ、後は髪をだな……」
「ねぇ、ロレンさん」
 櫛を片手に迫ろうとしたロレンにふとネルが問いかけた。ロレンも不審な表情を浮かべ、作業を中断する。
「……こんな手職を持っているのに、何で山賊のような因果な生活をやっているんだい?」
 この問いは、何ともロレンにとっては返答に困るものだった。何故? そう聞かれたのは初めてだ。
「兄であるリヒューさんだって、こんな事を出来るんだろ? なら、村を出て出稼ぎを……」
「それは裕福な奴がいう事だな。私だけが貧しいんじゃない、皆が貧しいんだ。村の人間は家族だ。其の家族全員を養うためには、金に溺れているような貴族から奪うのが手っ取り早い。それに、そういう奴らは貧しい奴らから恨みを買っている。それを晴らすのも、私たちの仕事だ。最も、兄は唯単に好き勝手に暴れて、そして生活していく事に満足しているようだけどね。皆、若いのさ。私も含めてな」
 社会に対する不満、そして反抗。これらは、何時の時代においても若者が先導していく。時代に飽き、時代を変えようとする力の源は若さだ。それを、彼らも持っているのだ。ロレンの言葉には、その力強さがある。
「……すまなかった。そうだよね。あんた達だって、生きるのに必死なんだ。それに、私だって大差変わりない事をしているしね」
 それに、人を殺している。この行為はネルだってやっていることだ。奪うか奪わないか、それだってネルはやっているのだ。
「いや、それが理解してくれるだけで私は嬉しいけどな。お互い、理解し合えないのは悲しいからな。私も、そちらの事を少しは理解しているつもりだ。だからこそ、討伐に関して不平は言わない。文句は言うが」
 ロレンはあの硬い表情を変え、微笑みながら言った。ネルは少し安心しつつも、彼女の言葉に少し笑ってしまった。やはり、人間らしい。
「さあ、仕上げだ」
 きちっとなっていたネルの赤い髪を少し櫛で癖をつける。これで盗賊らしい様子にやっとなった。
「なるほどね……今後の仕事の参考にさせてもらうよ」
 ネルは鏡を見て、満足そうに笑っていた。そして、少し戯れるように、愛用しているダガーを引き抜き、鏡に向かって構えてみる。
「まあ、もう少し弄ってみたかったが……これくらいで十分だろう。後は、悪たれのように振舞ってくれれば良い」
「OK。そういう事は任せな」
 ナイフを一回宙に投げ、それを再び取り、鞘へしまった。そしてロレンと一緒にネルは部屋を出て、手前の部屋に入った。すると部屋ではすでにアルベルがいらだった表情でイスに座っていた。リヒューは手をかざして、ようっと声をかける。
「やっと終わりやがったか……」
 アルベルもまた、顔に刺青が書かれていた。あの刺青はなんと言う意味だろうか?炎のような模様が、額に描かれている。
「おせぇんだよ……ったく」
 さて、問題の格好の方だが……。いかんせん彼の場合、普段が奇抜なために今回の衣装の方が随分とまともに見える。頭のバンダナは、あの特徴的な髪を誤魔化すためなのだろう。だが、其の方が、髪がすっきりとしている。露出も以前の服より少ない。確かにチンピラには見えるが、何故かまともだ。
「何だよ……」
 そんな彼を見て笑いを堪えているネルに対し、半分諦めながらもアルベルは睨みつけてきた。それがまた、様になっているのでネルは終に笑い出してしまった。
「あはは! ア、アルベル、其の格好いいよ! ずっとそれでいな!」
 半分馬鹿にして、そして半分は褒めているという複雑な思いをアルベルに直接ぶつける。アルベルは項垂れてしまった。
「畜生……どいつもこいつも」
「あはは……それじゃあ、行こうか。もう夕暮れも近いしね……」
「ああ、そうだな……」
 気がつけば夕暮れ時。もうすぐ人通りも少なくなる。夜になれば捕まえるのも困難だろう。だからこそ、この時間に合わせてきたのだ。
「ありがとうね、ロレンさん、リヒューさん」
「おう! 頑張れよぉ」
「……健闘を祈る」
 ロレンとリヒューはネルとアルベルを見送り、二人部屋に残った。
「さあって……俺たちも準備すっか」
「いいのか? これ以降は報酬外なんだろ、兄貴?」
「ああ? まあな。でもまあ、楽しい事に手を出すのが俺の主義なんでね。いくぜ、ロレン!」


 さて、所変わってアーリグリフ城下町。この街の大通りも、夕暮れ時となると人が少なくなり、少し淋しげな雰囲気を漂わせていた。
 そんな中、アーリグリフ王妃であるロザリアは、ユーガの指示通り一般市民に成り済まして、適当に買い物を済ませて城の方へと歩いていった。
「大丈夫かな……これ。ば、ばれてないわよね……」
 今のところは彼女が王妃である事はばれておらず、とりあえず適当な下級貴族のように見られているようだが、ロザリアとしては内心ビクビクと震えていた。
 ネル達が来る前に他の者に襲われたら如何しようかと思っていたり、騒ぎになったら如何し様など。そんな気持ちで一杯だった。
「待ちな!!」
 と、急に上から声が聞こえてきた。ロザリアは体を命一杯強張らせ、辺りを見渡していた。この声は、ネルだろうか?
 そして、上を見上げると、一つの影がロザリアのすぐ目の前に飛び込んできた。思わずロザリアは後ろへと転び、しりもちをついてしまった。
「な、何!?」
 ロザリアは顔をその影の方に向けた。するとそれは案の定、やはりネルのようだったが、あまりに様変わりしていて一瞬誰だかわからなかった。
「ふふふ……あんた、金持っていそうだね……」
 怖い。この一言で表現できるほど、今のネルは怖い。演技なのかそれとも本気なのかも分からないほど盗賊になりきっている。また、彼女の右手でくるくると廻っているダガーがそれを何倍にも膨れ上げる。
「ひっ!(いや! 本当に怖い! ここまでやる必要あるのぉ!?)」
 もはやロザリアは演技ではなく本当にこの場から逃げたかった。周りを見渡しても助けてくれる人物などいないし、ネルは今もこちらに迫り来る。
 しかし、ロザリアはしっかりと指示を守り、逆方向へと走ろうとする。すると、通路の影から一人の男が現れた。
「ふん、逃がすかよ」
 アルベルだった。しかしこちらは全くといっていいほど変わっていたために、ロザリアは心の其処から悲鳴を上げた。
「きゃああ!! 助けて、助けて!」
「……(そんなに悲鳴上げるこたぁねぇだろうが……)」
 作戦としては十分とはいえ、何かアルベルとしては複雑な気持ちだった。今までも散々子供からは馬鹿にされてきたが、女性からこれだけ登場際に悲鳴をあげられたのは初めてのことだ。
「……(仕事だ仕事……)命が惜しければ、俺たちに従うんだな」
「そうそう。悪いようにはしないからさ」
 あいつのほうが怖いだろうが、と、アルベルは思った。まるで何かに取り付かれているように豹変しているネルは、アルベルでも少し恐怖を覚えていた。
「いやぁ!! 助けて、誰かぁ!(本当に!)」
「まてぇぇぃ!!」
 と、もう一度ロザリアが悲鳴を上げた瞬間、何処からともなく声が聞こえてきた。其の声は、噂で聞いていたよりも低いような気がした。
「怪傑パルミラここに参上! とうっ!」
 上を見上げると、一つの影が飛び降りてきた。が、着地に失敗したらしく、腰を抜かしているロザリアの前ですっ転んでいた。
「あたた……」
 パルミラ(?)は足を押さえていた。
「……なんだい、これは……」
「噂のパルミラにしちゃあ、ちょっと馬鹿なんじゃねぇか?」
 そんな様子をネルとアルベルはあきれた様子で見ていた。どうやらパルミラ(?)は足をくじいたらしく、立ち上がることが出来ない。
「……さあ、どうした! このパルミラが相手だ、悪党共!」
 それでも強い気勢は崩していなく、情けない構えを二人に見せていた。ネルとアルベルは互いの目を見つめ合いながら言った。
「じゃあ、まあ……」
「とりあえず捻り潰すか」
 ネルはダガーを、アルベルは剣に手を掛けて二人に迫っていった。その行動にパルミラ?酷く驚いたようで、あたふたと二人を見ながら言った。
「いや、ちょっと……私はパルミラだぞ!? お前達なんか一捻りなんだぞ!? 怖くないのか!? おい!」
「だから望みどおり相手になってやるって言ってるんだよ。クソ……ぐは!」
 アルベルがパルミラに詰め寄った、其の時だった。また別の影がアルベルの頭を踏み、そしてネルに飛び込むと蹴りを入れようとした。
 ネルは咄嗟の事ながら何とかそれを防御し、前方に弾き返す。しかし、影はなんともなく一回転して綺麗に着地した。
 一方のアルベルは踏まれた拍子に倒れてしまい、雪に埋もれていたが、すぐに起き上がり、構える。
「偽者君、時間稼ぎご苦労!」
「何者だい!」
 もはやわかってはいたが、一応ネルは目の前にいる人物に名乗らせようとする。すると、マスクから出ている顔から余裕の笑みを浮かべてポーズを決めると、彼は叫んだ。
「パルミラの名の下に、悪を打ち砕くために生まれた正義の隠密!! 怪傑パルミラ此処に見参!! さあ、この私が相手になるぞ、悪党共!!」
 本物のパルミラは訳の分からない動き(後日フェイトの話では仮○ライダーなる者に酷似とのこと)をし、最後にポーズを決める。そして、周りから歓声が上がった。
「きゃー! パルミラ様ぁ!」
(くそ! 何か分からないけどかっこいいね!)
 なぜかは分からないが、不覚にもネルはそのポーズがかっこよく見えてしまった。と、其の時ユーガがロザリアを抱えていた。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「え? ええ……あの、パルミラ様?」
「さあ、早く逃げるんだ! この悪党は私が引き受けよう!」
「有難うございます。さ、お嬢様」
 そして、そのままそそくさとその場を立ち去っていった。それを見たアルベルとネルは酷く彼を恨んだ。
(あの野郎! いいところ取りかよ!)
 今すぐ拳をぶつけたかったが、悲しいかな、目の前には為さなければいけない仕事の対象がいる。兎に角、ネルとアルベルは各々の武器を構える。
「やっと現れたね……さあ、勝負だよ、パルミラ!」
 まずネルが駆け、未だにポーズを決めているパルミラに攻撃を仕掛ける。パルミラもまたナイフを取り出し、構えた。
「たあ!」
 ネルが斬りかかるが、パルミラは簡単に避ける。だがネルもすぐに切り返し、バンダナを狙う。パルミラは間一髪、宙返りをして避けた。
 そこへアルベルが入り込む。アルベルは雪を蹴り、パルミラに向かって散らしながら斬りかかる。パルミラは其の攻撃を受ける事無く、真上に飛んで避けた。
「ちぃ!」
「悪党にしては中々やるな! では、喰らえ!」
 パルミラは詠唱をはじめ、そしてすぐにファイアボルトをアルベルとネルの間に打ち込んだ。炸裂したファイアボルトの爆風に巻き込まれ、ネルとアルベルは吹き飛ばされたが、二人とも何とか体勢を立て直した。そして、再び二人でパルミラを囲む形となった。
(……なんて強さだい。これは、本気でいかなきゃ駄目だね!)
(……中々やるな……。ただもんじゃねぇ……)
 ネルは雪を払い、アルベルは剣を両手で構え、パルミラの出方を伺う。そんな彼女らを見てパルミラは余裕の笑みを浮かべた。
「どうした。もう来ないのかな? では、私からいくぞ! まずはそこの男からだ!」
 パルミラはアルベルを名指しし、そして再び変な動きを見せた後、アルベル向かって飛び上がった。
「――!」
「喰らえ、ライトニングキック!」
 パルミラの足に、電撃が収束する。そして、アルベルに向かって飛び蹴りを食らわそうとした。しかし、素早い動きであったが、アルベルとて先の戦乱を生き残ってきた兵。これくらいの攻撃を避けるのは如何さ無い。外した蹴りはアルベルの後ろにあった樽を破壊しただけだった。
「何――!?」
「喰らいやがれ!」
 アルベルは力一杯、剣をパルミラに振り降ろした。爆発するように雪が散り、一瞬パルミラとアルベルの姿がネルの視界から消えたと思うと、すぐにパルミラが屋根に飛び乗り、そして走り去った。
「ちぃ!!」
 どうやらあのアルベルの剣閃を寸前で回避したらしい。アルベルが悔しそうにパルミラの去った方を見ようとした。
「が!」
 と、其の顔を踏み台にして、ネルがパルミラを追うために屋根へと昇った。一方のアルベルはそのまま地面に叩きつけられ、空を仰いでいた。
「ああ……空って、こんなに綺麗だっけな……」
 もはや、顔に踏みつけられた後を残して、アルベルは考えるのをやめた。
「待ちな!」
 そんな時もネルはパルミラを追撃していた。やはり腕をやられていたらしく、点々と血が垂れている。だがパルミラは腕を押さえながら、尚もネルから逃げようとしていた。だが、別の方向から突如リヒューとロレンが飛び込んできた。
「逃がすかよ!」
「……」
「く!」
 パルミラはナイフを取り出し、二人に向かう。リヒューは得物のバトルハンマーを大振りした。パルミラはそれを避け、ハンマーは屋根に叩きつけられる。
 ロレンもダガーで切りかかるが、パルミラはそのダガーをナイフで弾き飛ばした。しかし、この動きの隙にネルが差を詰め、そしてパルミラを抱え捕まえた。
「捕まえた!」
 ネルとパルミラは屋根の上で転び、そして共に倒れた。ネルはすぐにパルミラを仰向けにさせ、そして仮面を剥がした。
 その時、ネルに衝撃を受けた。其の仮面の中身が、彼女が良く知る人物だったからだ。
「タ、タイネー……ブ?」
「あ、あはは……ネル様お久しぶりです……」
 パルミラの中身……タイネーブは苦笑いをしながら震えてネルを見つめていた。ネルはわなわなと手を震わせて、眉間に皺を寄せていた。
 そして、拳を振り上げ、叫んだ。
「この馬鹿タイネェェェェブ!!」
 大きく、そして張り詰めた音がアーリグリフに流れた。


「で、どうしてこんなことをしていたんだい?」
 場所は移り、アーリグリフ城内のある部屋。イスに縛られているタイネーブを囲うように左からユーガ、ロザリア、ネル、アルベルの順に並んでいた。
 当の本人タイネーブは冷や汗を十分すぎるほど掻き、そして一人ひとりの顔を見ていた。
「ええっと……ですね……どこから話せばいいですか?」
「……じゃ、任務もなしになんでここにいるんだい?」
「任務です! 本来は! ……本当ですって!」
 未だに誤魔化そうとしているかと思い、ネルはタイネーブの胸倉を掴んだ。タイネーブは慌ててネルに弁明した。
「ク、クレア様からの直々のお願いでして……。本来はクレア様の部下が追っていた犯罪組織がアーリグリフに逃げ込んだため、それを捕まえるために偶々アリアスにいた私が抜擢されまして……」
「……あんたねぇ……そういうことは早く私に報告しな!」
「す、すみませんでした!」
 タイネーブは縛られたからだが揺れるほど頭を下げた。そんな様子に流石のアルベルもあきれ返ったようで、ユーガの肩を叩いて、その場から立ち去ってしまった。
「で、それで?」
「は、はい……任務は難航していたのですが、ある時女の人が襲われているのを見て、助けなきゃと思っていたのですが、任務中ですし、私用の行動は控えるべきだと思ってしまって、どうしようかなとおもっていたらこの仮面を見つけて……」
 タイネーブが横目に見た先には、先ほどネルが剥いだ仮面が置かれていた。今見ると、見るからに妖しい仮面である。しかし、それを躊躇無くはめてしまっているのだからタイネーブも凄いといえるだろう。
 「……で、その女性を助けたのかい? それにしても、あんた何かにとりついていなかったかい? 態度が違いすぎるよ」
「あ、いやそれは……あの仮面を付けてください」
 ネルはタイネーブの言葉に疑心を浮かべながらも、それをタイネーブの顔にはめた。すると、一回タイネーブは項垂れ、そしてすぐに正面を向いた。
「……む。やっと戻ったか……。やや、貴様らは……何? うん……」
 声はタイネーブの物だが、明らかに態度が違う。しかも、独り言をぶつぶつといっていたので、ネルやロザリア達は少し引いていた。
「……そうか……事情はこの体の主から聞いた。どうやら私は何か勘違いをしていたらしいな。お詫びしよう、すまない」
「いや、まあその……」
 何がなにやら、ネルにはもう分からなかった。とりあえず整理をしようと脳をフル回転させ、とりあえず質問をしてみる。
「あんたは誰だい?」
「私は怪傑パルミラ。先ほども紹介しただろう? 今はこの仮面にとり憑いている魂だが、数百年前までは名を馳せていた英雄だよ、お嬢さん」
「数百年って……相当昔だね。で、正義の隠密というのは?」
「元々私はシーハーツの軍内部の人間だったが、任務という枠に捕われるのに嫌気が差し、この仮面を被ってこのゲート大陸中を旅しては弱き者を助けてきた。しかし、力及ばず、この地で果てたのだが……未練が残り、この仮面にとり憑いたというわけだ。勿論、この体の主の了承つきでな」
「そんな事言って、本当はタイネーブの体を奪うのが目的だったんじゃないかい!?」
「そんな事はない。そうでなければ、彼女と話す事もないからな」
 それもそうだ。体を奪うならば、今頃タイネーブの魂は何処かへと旅立っている事だろう。しかし、先ほどのタイネーブとの会話から分かるように、どうやらお互いパートナー関係にあるらしい。
「……はあ……こういう場合、どうするんだいユーガさん」
「どうすると申されても……まあ、ネルさんの知り合いの方のようですし、誤魔化しも利くでしょうし……う〜んでも」
「心配には及ばない」
 ユーガが返答に困っているところに、パルミラは笑みを浮かべながらこちらに話しかけてきた。ネル達が改めてタイネーブの体を見ると、そこから何かが抜けて、そしてネルたちに喋り掛けていた。
「……あんた……」
「私はこのタイネーブという女性に出会い、そして貴方達に出会った。貴方達のような強さを持ち、そして正義の心を持てば、ゲート大陸は安泰であろう。私の役目は、終わったようだ」
 本当のパルミラは、やはり美的な男性で、噂どおり中性的な声に金髪な髪、そして優しい表情を浮かべていた。
「タイネーブよ! 其の正義の心を無くすなよ! さらばだ、我がパートナーよ!」
 彼はタイネーブの体から離れると、何処かへと消えていった。そして、ゆっくりと、タイネーブの意識が戻ってきた。
「……行っちゃったか。全く、最後の最後まで訳の分からない奴だったね」
「……ええ。でも、素敵な人だったわ」
「パルミラさん……」
 タイネーブは上を見上げ、今はもう何処にも居ないパルミラを想った。すると、何処からとも無く、タイネーブの手元にパルミラの花が舞い降りてきた。それは、柔らかな光を放ち、暖かい。そして、タイネーブの手に着くと同時に綺麗に消えていった。
「……ありがとう」
 タイネーブは、微笑みながら手を胸に当てた。


 後日。
 パルミラは消えた。アーリグリフは何事も無い毎日を取り戻した。
 タイネーブの一件は、シーハーツ側の謝罪と、共同作業によって犯罪組織の壊滅を果たしたので事なきを得た。以前の関係では考えられない事である。
 そして本人は、任務中の勝手な行動と上司に対する報告の怠りという事で、長期の休みを言い渡された。
 どうやらこの一件はクレア本人の独断でやっていたらしく、彼女またかなり絞られたようだ。とはいえ、これもまた善のためだったので、本人としては満足のようだが。
 さて、話は変わるが、今ゲート大陸で話題の人物がいるそれは……。

「パルミラの名の下に、悪を打ち砕くため生まれた正義の隠密、怪傑パルミラ二世此処に見参! さあ、この私が相手になるぞ、悪党共!!」

 今日もまた、パルミラ二世は闇夜を行く!!


− Fin −




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