翌日のことだった。
 いつものようにシランド城へやってきたフェイトを待ち構えていたのは、ネルの部屋に集合していたクレアとファリンとタイネーブだった。
「どうしたんだい? 今日はみんなそろって」
「ど〜したもこ〜したもないですう〜!」
 ぷんすか、とファリンが怒った様子で両手を上げてフェイトに怒り出す。
「どうしたんですか、ファリンさん」
「フェイト様。どうか、率直におっしゃってください」
 タイネーブが真剣な表情で尋ねてくる。

「アイーダと付き合っているっていうのは、本当なんですか?」



allemande



「──は?」
 何その急展開。というかいったいどこからそんなデマが飛び交うようになったというのか。いや、それを希望していないといったら嘘になるが、だからといってまだ正式におつきあいとかは何も。
「ふぇーいーとーさーんー」
 ファリンの目が据わっている。
「フェイトさんを殺して、私も死んでやるぅ〜!」
「ちょっ、何考えてるのさファリン! やめなさい!」
 暴れようとするファリンをタイネーブがおさえつける。というか、仮に自分がアイーダと付き合ったとして、どうしてファリンが怒るのかが分からない。
「いや、暴れなくても別にアイーダとは何でもないですから」
 フェイトが頭をおさえてこたえる。ぴた、とファリンの動きが止まる。
「本当ですかあ?」
「ええ」
「そうですか〜」
 すっかりおとなしくなり、笑顔満面になって続ける。
「やっぱり、フェイトさんは私のことを〜」
「いやいやいやいや、それもないですから」
「フェイトさんのいけず〜」
 ぷぅ、と今度はかわいらしく頬を膨らませる。ファリンさんってこんなキャラクターだったっけ、とフェイトは思い悩む。
「では、単なる噂にすぎないということですね」
 黙って場を見守っていたクレアが確認してくる。
「ええ。ネルには話してあったんですけど……ネルはどうしたんですか?」
「噂の出所をおさえにいきました」
 タイネーブがかしこまって答える。
「ああ、そう。せめてファリンさんに事情を説明してから行ってほしかったよ」
 はあ、とため息をつく。
「ただ、火のないところに煙は立たないといいます。アイーダとは何があったのですか?」
 クレアが尋ねてくる。
「まあ、だいたい予想はつきますけど」
 昨日、いやもう一昨日になるのか。公園の散策コースで現れたゴーストを皮切りに、城下で二件、さらにはこのシランド城で光王シーハート二十四世のゴーストと戦った。おそらくは一昨日の夜、一晩中シランドを連れまわされたことが原因だろう。
 何しろ【土】の事務室で自分もアイーダも誤解を招くような発言をした。訂正してもいなかったから、噂に尾鰭がついて今頃どうなっているのやら。
「……ちなみに、クレアさんのところにはどのような噂が届いたんですか?」
「聞きたいですか?」
 にっこり、と笑うクレア。いけない。これは怒っている。
「いえ、けっこうです」
「いいですか、フェイトさん。ネルを泣かせたら承知しませんからね」
「そこでネルが出てくる理由もないんですが」
「フェイトさんはネルを袖にするつもりですか!?」
 今度はクレアが怒り出す。勘弁してください本当に。
「なんだい、随分騒がしいね。ああ、フェイト。もう来てたのか」
 と、そこへ当のネル本人が戻ってきた。助かった。救いの女神だ。
「フェイト。あまり、噂になるようなことは慎みな。あんたたちが【土】の事務室で話していたことを確認してきた。誤解とはいえ、あんたたちに非がある。分かっているかい?」
「ああ。ごめん、ネル」
「私は別にかまわないんだけどね。こうしてあんたの噂で右往左往しているのがこれだけいるんだ。あんたはこの国にとって重要人物であるということを、もう少し自覚しなければいけないよ」
「ああ」
「で、話は変わるけど」
 ネルはマフラーに顔を埋めて。
「実際のところはどうなんだい? あんただってアイーダのことは気にかけていただろう? 脈はありそうなのかい?」
「ネル、お前もか」
 フェイトは頭を抱えた。
「僕がそういったことに頭が回ると思うのかい?」
「普通ならね。ただ、あんたがアイーダのことを随分と気に入っているのは事実だろう? もちろん、惚れたのなんだのっていう以前のことだよ」
「まあね。確かにあの子は気に入っているけど、だからって付き合っているなんていうことはないよ」
「そうかい。ま、あんまり長いこと待たせるんじゃないよ。あんたがどうかは知らないけど、アイーダは本気かもしれないからね」
「そういう怖いことを言うのは本当に勘弁してほしいんだけど」
 ため息をつく。
「少なくとも、あのアイーダが他人と一緒にいるのを嫌がらないっていうのは初めてのことだろうね」
「それは見ていたら分かるよ。あんな様子だもの」
「だったらアイーダにとってあんたの存在は非常に大きいってことだ。恋愛かどうかは分からないにせよ、アイーダがあんたを頼りにしているのは間違いないだろう。だったらきちんとした態度を取るべきじゃないのかい? ま、好きか嫌いかは別にしてもだ」
「ああ」
 もちろん自分だってアイーダのことを嫌っているわけではない。向こうがどう思っているのかはつかみかねるところだが。
「じゃ、がんばりな。ほら、あんたたちもさっさと仕事に戻りな!」
 そうしてファリンとタイネーブもたたき出される。クレアはそのままネルのもとに留まった。
 さて、そうしたら噂の渦中の人物に会うとするか。
「む、フェイトさん、もしかして〜アイーダに会いにいくんですかぁ?」
「そのつもりだけど」
「だ〜め〜で〜す〜!」
 いや、ファリンさんに止められる理由とかないから。それに、
(ゴーストハンターの仕事はこれからどうなるんだろうな)
 詳しいことは全く聞かされていない。いずれにしてもアイーダに聞かされてからということになるだろう。
 ただ、ファリンにとって幸運だったのかはともかく、その日アイーダはいなかった。師団の仕事なのか、それともゴーストハンターとして動いているのか。聞くこともできない以上、確かめようがなかった。





 目を覚ますと、そこは戦場だった。
(は!?)
 彼の目の前で飛び交う弓矢、施術、そして血しぶき。
 いったい何が起こっているのか、まったく分からない。
「うおおおおおおおおお!」
 何やら見慣れた装束の相手が剣で自分に斬りかかってくる。
「ちょっ!?」
 何故か自分は剣を手にしていたので、その剣で相手の剣を受け流す。
(ま、待て待て待て待て待てっ!)
 一気に心拍数が上がる。まずは自分の状況を冷静に分析しなければ何が何やらさっぱりだ。
(クールになれフェイト・ラインゴッド。落ち着いて素数を数えるんだ。1、4、9、16、25)
「それは素数じゃなくて二乗数!」
 自分で考えたことにセルフ突っ込みを入れる。こんな戦場で随分余裕があるものだ。
 それはさておき、この状況はあまりにおかしい。自分は昨夜、自分の部屋できちんと寝たはずだ。それが起きてみたらどうだろう。空に雲、大地に兵士。ここは──まさに、戦場。
 というか見慣れた敵だと思ったら、相手はアーリグリフ軍だ。ちらほらと漆黒の姿も見える。空を飛んでいるのは疾風か。ということは何か、あれか。
(アーリグリフがまた攻め込んできたのか!?)
 アーリグリフ王やアルベルと話した感じではそのようなことにはならなさそうだったのに、どうして突然こんなことになってしまったのか。
(くそっ! 状況がまったく飲み込めない!)
 あれこれと考えている間にも彼のところまでアーリグリフ兵が戦いに来る。
「リフレクトストライフ!」
 とりあえず殺傷能力の低い技で攻撃する。なんとか倒したはいいものの、どうやらシーハーツ軍の方が圧倒的に不利のようだ。
(それにしても、どこなんだ、ここは)
 アーリグリフとシーハーツの間で戦場になるとすれば、アイレの丘・グラナ丘陵といったところか。戦場をあまり景色で覚えていたわけではないが、なだらかな山の稜線を見ると、おそらくはアイレの丘ではないかと思われる。
(味方はほとんど抗魔師団【炎】か。でも【炎】だけで漆黒と疾風をおさえられるほど、甘くはないな)
 だとしたら敵将を倒してしまうのがいいか。その方が戦争をすぐに終わらせられる。
 敵将を探すのはヴォックスと戦ったときに経験済みだ。敵兵の集まっているところをめがけて動く。そうすれば無駄に一番豪華な鎧を着ていたり、明らかに奉られている人間がいる。それが敵将。
(見つけた!)
 漆黒の将軍。これを倒せばおそらくこの場はもちこたえることができるだろう。
「何者だ!」
「僕の名前を知らないのか、アーリグリフ軍なのに!」
 彼は言い返して攻撃を開始した。
「ショットガン・ボルト!」
 無数の光弾を敵将に叩きつける。それで敵戦闘能力のほとんどは奪い取ったが、さらにダメ押しだ。
「リフレクトストライフ!」
 完全に吹き飛ばされた敵将は、大地の上で痙攣を起こした。
「た、隊長!」
 何人かの兵士がその倒された人物のところに駆け寄る。
「ひ、引けっ、引けーっ!」
 副官らしき人物が退却を命じ、ラッパが鳴らされる。そうして戦場に出てきていたアーリグリフ兵は引き上げていった。
「やれやれ。いったい、何だっていうんだよ」
 彼はとにかくいったん自軍に戻ることにした。状況の説明を聞かなければまったく意味が分からない。
 戻る途中で、少し怪我をして歩きにくそうにしている同僚に出会った。
「ちょっといいかい──怪我をしているのか」
 彼はヒーリングを唱えて、相手の怪我を治す。【炎】の兵士は「ありがとう」と答えた。
「いったい何が起こったんだ? アーリグリフと戦争が起こったのか?」
 尋ねると、相手の兵士は顔をしかめた。
「お前、何を言っているんだ?」
「え?」
「戦争なんか、ずっと続いてきたことだろう。昨日、今日始まったわけでもない」
 えーと。
 何か、話がかみ合っていないような気がするが。
「ええと、とりあえず──」
 と、さらに話を聞こうとした。その瞬間、彼の意識が靄に包まれるように、白く染まっていく。
(え?)
 何が起こったのか分からない。ただ、
(意識、が……)
 消える。消えていく。
 いったい、何が起こったのか。
 彼には、まったく分からなかった。





「って、フェイト!」
 目を覚ましたとき、目の前にネルの姿があった。
「……ネル?」
「いつまで寝てるんだい、まったく」
 ここはシランド城下に特別に用意されたフェイト・ラインゴッドの部屋。
「いつまで……って」
 ようやく頭が働き始める。落ち着け、フェイト・ラインゴッド。素数は2、3、5、7、11だ。
「そうか、夢だったのか。まったく、悪い夢だった」
「夢?」
「ああ。アーリグリフと戦争を再開する夢だった」
「縁起が悪いね。予知夢にならないでもらいたいものだね」
「まったく。それにしても、リアルな夢だったな」
 そうして起き上がる。本当に、随分と寝過ごしてしまったようだった。
「ところで、アイーダが私の部屋に来ているんだけど、あんた、約束してたかい?」
「僕が? いや、今日は何も話はしてないよ。昨日会いに行ったらいなかったから」
「そうかい。じゃ、向こうは向こうで用事があったのかもしれないね。とにかく、私の部屋で待たせてある」
「了解」
 寝起きではあるが頭は完全に動いている。ネルが出ていってから、一応みだしなみを整えて、それから部屋に向かう。
 アイーダはその小さな体で、ネルの部屋の中で、椅子にちょこんと座っていた。
「おはよう、アイーダ」
「もう昼ですよ、フェイト様」
「僕はここで、アイーダが眠らせてくれなかったからだよとでも答えればいいのかい?」
 ほんの数日前の会話。それを【土】の詰め所でやってしまったことが噂の発端となったのだ。
「噂が一人歩きするスピードにはただただ驚くばかりです」
「まあ、その話は置いておこうか。それで、今日はどうしたんだい?」
「はい。道々話をしたいと思いますがよろしいですか」
 ここまで来たのは、自分は常にネルのところにいるとでも思われていたからなのだろうか。とはいえ、ネルもわざわざ自分を呼びに来るくらいなら、アイーダに自分の部屋まで来させればよかったのに。
「アイーダはいつからここに?」
「ネル様が働き始めてからずっとです」
「ずっと?」
「はい」
 時計を見る。もうすぐ正午。
「どうして直接僕の部屋に来なかったの?」
「噂に尾鰭がつくのを防ぎたかったのですが」
「ああ、納得」
 朝からフェイトの部屋にやってきたり、逆に二人で朝からフェイトの部屋から出てきたりしたら、それはまた変な噂になってしまうだろう。
「おかげで私が雑用を引き受けるハメになったんだよ。これは貸しにしておくよ、フェイト」
「借りておくよ。現実の世界も厳しいなあ」
 その言葉にアイーダが首をかしげる。
「いや、ちょっと夢見が悪かったからさ」
「悪い夢でも見ましたか」
「まあちょっと。けっこうリアルだったから」
 そうしてアイーダと共にネルの部屋を出て、二人はそのままシランド城を出ていく。
「悪夢を見させるような霊とかっているのかな」
「絶対にないとは言い切れませんけど、データでは霊と夢との間に関連性を示すものは存在しません」
「ありがとう。まあ、あまり深く考えない方がいいかな。ただの夢なんだし」
「ただの、というわけではないかもしれませんよ?」
 意味ありげに言う。
「何か分かるのかい?」
「いえ。フェイト様は不思議な方ですから、何か特別なことがあってもいいかと思っただけです」
「僕にしてみればアイーダの方がずっと不思議だけどね。もしかして、僕に夢を見させたのがアイーダだったりして。だとしても僕は驚かないけど」
 すると、アイーダは冷たい目をしてから、ゆっくりと指を二本立ててみせた。ピースサインだ。
「何本に見えますか?」
「うわあ、まさかアイーダにSAN値を疑われるとは思ってなかった」
 すると、その言葉にアイーダが顔をしかめる。
「SAN値?」
「いや、僕の世界の専門用語だから気にしなくてもいいよ」
 だが、それでもアイーダはいぶかしげにフェイトを見つめてくる。その小さな顔が、不審なものを見るかのように疑いの眼差しを解かない。
「それで、今日は何の用だったんだい?」
「私がフェイト様に用事があるとしたら一つしかないと思いますが?」
「尋ねてるのは僕。答えるのは君」
「失礼しました。ぶっちゃけて言うと『霊退治に協力しやがれ』ということです」
「それはぶっちゃけすぎ」
 まったく、どうも今まで一人でやってきただけに、ものの頼み方ということから教えなければいけないらしい。
「そういう場合はお願いしますって言うんだよ」
「フェイト……様」
 すると、アイーダは目をうるませて、しなを作ってみせる。
「私……一人では、不安で、フェイト様が、一緒なら……っ!」
「すみませんでしたお願いですから普段のままのアイーダでいてください」
 するとアイーダは普段通りに戻って「では参りましょう」とのたもうた。
「で、どこに行くつもりだい?」
「光王の霊がこの場を離れたおかげで活動期に入った霊の退治です。城下町南西部」
「分かった。じゃあさっさと終わらせよう」
 そうしてフェイトはその日もアイーダに協力して霊退治を行った。





 音が聞こえる。
 爆発音に、剣戟の音。
(また、この夢か?)
 目を開けると、そこは前回同様に戦場だった。
 いや、前回とは違う。
「アリアス?」
 場所が違った。前回はアイレの丘での乱戦だったが、今回はアリアス。それも防衛戦だ。敵が城壁をよじ登っている。城門は閉じられたままだが、このままでは時間の問題かもしれない。
(くそっ。こんなの、夢に決まっているのに)
 だが、その夢の中でシーハーツ兵が次々に倒されていく。
 たとえ夢でも、こんな場面は見たくない。
「くっ」
 彼は駆け出す。そして、漆黒を一体倒す。
 心臓が早鐘を打つ。この肉を斬る感触。漂う血と炎の匂いと、響く悲鳴。
(これが夢だっていうのか? こんなに、はっきりとした感触があるのに!)
 明晰夢。自分が夢を見ていると自覚する夢で、ある程度夢の世界を自由に操ることができる。もしもそうなら、今すぐこの戦争を止めて、別の場所に連れて行ってほしい。
 だが、この夢はそんなものではない。自分の意思とは無関係に人が傷つき、死んでいく。
 現実の戦場。
(とにかく、状況が分からないといけない)
 まずは戦争を止める。前回と同じだ。敵のリーダーを倒し、この戦いを止めるとはいかなくても中断させることができれば、状況を確認する時間が取れるはずだ。
 自分がいるのはアリアスの外側。敵が城壁を登っている最中、いやもしかするともう中に入られているのかもしれない。だが、それなら敵将を討ち取れば敵も引き上げざるをえないはずだ。
(敵将はどこだ?)
 既に回りに味方がほとんどいない。アーリグリフ兵ばかりが目に映る。
「ショットガンボルト!」
 無数の光弾で敵を弾き飛ばし、敵将のいるあたりへと駆けつける。
「そこまでだ!」
 あえて大きな声を出して敵の注意を引く。
「シーハーツ兵か。よくもここまで来られたものだな」
「疾風か。なんでアーリグリフはまた攻撃を始めたんだ?」
「何をとぼけている。我らが王を殺害しようとしたのは貴様らであろうが!」
「シーハーツが? そんな馬鹿な」
「問答無用!」
 いや。
 今の話は何かがおかしい、というよりも聞いたことがある。
(まさか)
 じわり、と背中に汗をかく。

 これは──現在ではなく、過去の夢か?

 そう。アーリグリフがシーハーツに戦争をしかけた理由。それはアーリグリフの食糧難などが大きな原因だったが、その口実に使われたのが『アペリス教の信者がアーリグリフ王を暗殺しようとしたことに対する報復』だったはずだ。
 ということは、今自分が見ている夢は、過去に起こった現実ということになる。
(カレンダーでもあればいいんだけれど)
 そんな便利なものが戦場にあるはずもない。後で確認しなければ。
「くらえっ!」
 と考えている間にも疾風が飛竜に乗ったまま攻撃を仕掛けてくる。だが、幾多の戦場をくぐりぬけてきた彼にとって、この程度の攻撃が通用するはずもない。
「エリアル!」
 高く飛び上がって、急降下する疾風の上を取る。そのまま剣を振り下ろして疾風を大地に落とす。
「ごめんよ!」
 竜に罪はない。だが、竜を倒さなければシーハーツ兵がやられてしまう。
 竜の翼の付け根の部分に剣を突き刺す。それでもう、竜は飛び立つことができなくなる。これで疾風の力を一人分削ぐことが可能だ。
「聞いてもいいかい」
 大地に倒れた疾風に剣を突きつけた。
「戦いは今、どうなっているんだ? 戦争は始まったばかりなのか?──いや」
 聞き方を間違えた。これが過去かどうかを確かめるには簡単な質問がある。
「ヴォックスは生きているのか?」
 それで判断できるはずだ。
「当たり前だろう。我らの総大将がお前たちごときに倒されるはずがない」
「やっぱりそういうことか。ありがとう、助かった」
 これがアリアス防衛戦ということは、自分たちが王都アーリグリフに墜落してくる前の話だ。一度アリアスは戦火にあって、いくつもの建物が焼かれた。水際で食い止めたという話だったが、いったいどうやったのか。
(考えていても仕方がないか)
 被害を拡大させるわけにはいかない。それなら町に入り込んでいる敵を倒さなければいけない。
 彼は城門へ戻った。既に何人ものアーリグリフ兵が町に入り込んでしまっているようだ。疾風も中に入っている。まずは疾風を倒さなければ。
 その途中で城門が開いた。どうやらアーリグリフ兵が制圧したらしい。一気に群がる兵士たち。
「させるかぁっ!」
 彼はその城門に群がるアーリグリフ兵に向かって大技を放つ。
「イセリアルブラスト!」
 その一撃で、アーリグリフ兵たちは一度に薙ぎ倒されていく。
「そこまでだ!」
 それでも生き残っているアーリグリフ兵たちを片端から剣で倒していく。
「甘い!」
 と、そこへ空中から急降下してくる疾風。まずい、完全に隙をつかれた──と覚悟を決めた瞬間、遠方から放たれた弓矢によって、竜の右目が射抜かれる。竜は叫び声を上げて地面に落ちた。
(すごい)
 見ると、アリアス城門の上に一人の弓兵がいた。いや、その格好からするに、ただの弓兵ではない。かなり上級の構成員に違いない。
「ありがとうございます!」
「これも何かの縁だ。気にするな」
 そう言って、彼はさらに弓矢で敵兵を次々に射抜く。たいした腕だ。一矢たりとも外していない。まさに百発百中。
「僕も負けてられないな」
 地上に残った漆黒は弓矢で射抜くのは無理だ。重曹歩兵を中心に彼は剣で打ち倒していく。
 やがて、アーリグリフが完全に劣勢になったところでアーリグリフ兵は引き上げていった。何はともかく、最初のイセリアルブラストの一撃で薙ぎ倒したのが大きかったのだろう。
「なんとかなったのか」
 ふう、と一息つく。
 その瞬間、彼の意識はまたブラックアウトした。





 目が覚めると、またいつものように自分の部屋だった。
(同じ夢か。いや、微妙に違うのかな。同じアーリグリフ戦役だけど、場所が違ったもんな)
 最初はアイレの丘。次はアリアス。
 どうして自分はこんな夢を見るようになってしまったのか。全くもって意味不明だ。
 また寝たら夢の続きを見るかもしれない。
(それなら、アーリグリフ戦役がどんな感じだったのかを確認しておくのがいいかもしれないな)
 夢を見る原因は分からないが、夢の内容が分かればもう少しうまく立ち回れるはずだ。
 そして既に気づいていることではあったが、あの夢はただの夢ではない。何か、自分の身に特別なことが起こっているのは間違いない。
(とはいえ、どこに行けばそういうのは分かるのかな)
 戦史資料なら図書館に行けばいいだろうか。もっとも一般に発行される資料には細かいことは載っていないことが多い。それなら軍管記録を見た方がいいか。
 とりあえず着替えてからネルの部屋に向かう。まったく、アイーダと出会ってから変なことばかりが起こっている。
「今日は早いね、フェイト」
 部屋では既にネルが仕事を始めていた。うずたかく積まれている書類の山。全くここのクリムゾンブレイドは本当に仕事熱心だ。
「おはようネル。部下に任せられる仕事は少しくらい分ければいいのに」
「アストールが戻ってきていればそうするんだけどね。ファリンやタイネーブに重要事項は任せられないよ」
「そういえばアストールさんは今どこに?」
「ああ、アーリグリフは引き上げて、今はアリアスで【炎】と一緒に行動しているよ」
「ネルの配慮が心にしみるよ。でもルージュさんはアストールさんに興味なさそうだけど」
「馬鹿。そんなんじゃないよ。あの二人は仕事と私生活はきちんと分けられる。というより、アストールくらいじゃないとアリアスの問題は任せられなくてね」
「問題?」
 何かあったのだろうか。ネルが言うくらいなのだから、よほどのことが起こっていると見ていいのだろうが。
「ああ。最近【炎】の構成員たちが次々に倒れる怪死事件が発生しているんだ。何が起こっているのか調査させてるのさ」
「【炎】の構成員だけ? 市民は?」
「それが市民は全然問題ないんだよ。本当に構成員だけなのさ」
「変わったこともあるもんだね。何人くらい?」
「もう十人になる」
 それはさすがに大人数だ。一人二人というのならないこともないが、十人ともなると。
「怪死って、どんな感じなんだい?」
「原因は分からない。ただ、共通していえるのは全員が衰弱死しているっていうこと。十日以上何も食べてなかったみたいにね。すぐ前の日は何ともなかったのにだよ?」
「それは不思議だね。確かに調べるのには相当技量が必要そうだ」
 アリアスで起こっている怪死事件。そして今朝見たアリアスの夢。
(考えすぎかな)
 それがつながっていると考えるのは。
「なあ、ネル」
「なんだい?」
「アーリグリフとの戦争のときの記録ってどこにあったっけ」
「一部はクレアの部屋にあるだろうけど、ほとんどはアリアスに残してきたままだよ」
「そっか」
 なら話は早い。どうせ行くことになるのだ。
「僕がアリアスへ行ってもいいかい」
「……まあ、そんなことを言うような気はしていたけどね」
 ネルは腕を組んで考える。
「調査のためかい? それに、アーリグリフ戦って、去年の戦争に何か原因が?」
「それを調べたいと思っているのさ。もともと僕の個人的な理由で戦争のことを調べたかったんだけど、もし無関係じゃないのなら解決してくるよ」
「あっさりと言うね、まったく」
 ネルは顔をマフラーに埋める。
「分かった。それはかまわない。どのみちあんたをここにつなぎとめておく理由なんてないんだしね」
「ありがとう。ただ、一つだけお願いがあるんだけど」
「なんだい?」
「アイーダを一緒に連れていってもいいかな」
 今度は沈黙。そして長い時間をかけた後に大きなため息が帰ってきた。
「あんたは本当に私を困らせてくれるね」
「ごめん」
「もちろんクリムゾンブレイドの名前を出せば四級構成員くらい簡単に動かすことはできるよ。ただ【土】の内部に踏み込むことだからあまり歓迎されるわけじゃないし、ましてやあんたたちは変な噂が立ったばっかりだ。あまりそれを拡大するのは困る」
「だろうね」
「まったく、そんな残念そうな顔をするんじゃないよ」
 ネルは苦笑した。
「いいよ。【土】の師団長ノワールには私から言っておく。もっとも、ノワールにしてみれば厄介払いができたと思うかもしれないしね」
「ありがとう」
「やっぱり【空】を作って、あんたが師団長でもやればいいんじゃないか? 構成員はアイーダ一人だろうけど」
「それだけは本当に勘弁」
「正午には出発できるようにはからっておくよ。あんたは自分の準備でもしてな」
 それからフェイトは深く感謝してから準備を始めた。とはいえ、いつでも移動できる準備はしてあるのだから、それほど時間がかかるというわけでもない。
 朝食を取って、旅の準備をして、昼前には出発できる準備が整ったところでネルの部屋に向かう。
「フェイトさぁん」
 ネルの部屋に入ろうとしたところで、後ろから耳元にふっと息をふきかけられて「ひぃっ」と声を上げる。心拍数が一気に上がった。
「ふぁ、ふぁ、ふぁ、ファリンさん」
「うふふ〜、フェイトさん、かーわいい」
「冗談でもこういうことはやめてください」
「すみません〜。でも、今回私を誘ってくださって、嬉しかったものですからぁ」
 ……。
「すみません。もう一回言ってくれませんか」
「フェイトさん、かーわいい」
「その後」
「すみません〜。でも、今回私を誘ってくださって、嬉しかったものですからぁ」
「誰が?」
「フェイトさんがですぅ」
「どこに?」
「アリアスに行くんですよねぇ?」
 先生、なんだかすごく嫌な予感がしてきました。
「ネル」
 中に入って声をかける。中には既に準備の出来たアイーダが待っていた。
「ああ、フェイトにファリンもちょうどよかった」
「ネル。どういうことだい?」
「ファリンのことかい? いや、せっかくだからファリンもアストールの下で実地で鍛えさせようと思ってね。ファリン、遊びじゃないんだからね。分かってると思うけど、シーハーツ兵ばかり狙われているんだ。気をつけな」
「はい、それはもう」
 満面の笑顔。うわ、こんな眩しいファリンさん初めて見た。
「それで、私まで連れて行かれるのはどういう理由なのでしょうか」
「決まってるだろ、フェイトがアイーダを是非っていうんだからね」
「私はこのシランドでやることが──」
「四級構成員の仕事なんか誰だってできるよ」
「そうではなくて」
「悪いけど、アイーダ。私もフェイトの意見に賛成だ。あんたの言っていることが事実だとするなら、アリアスで今起こっていることはもしかしたらあんたの領分に入ってくるかもしれないよ」
 そう。
 フェイトが何故アイーダを連れていこうと思ったのか。それは前回の事件でアイーダがいった『男性が倒れた』という症状、医者の見立ては日射病ということだったがそれに似てはいないか。
 つまり、今アリアスで起こっていることは『霊』の仕業ではないか、ということだ。
「そういうことだろ、フェイト?」
「まあ、そういうこと」
「というわけで、どうだい? こういう任務の方があんたにはうってつけだし、解決すればあんたの本業でボーナスが出るかもしれないよ?」
 ぴく、と反応した。確かにアイーダは常日頃報われない仕事ばかりしているのだ。たまにはご褒美があってもいいはずだ。
「一つ、いいでしょうか」
「なんだい?」
「ネル様は信じてくださるのですか。私のことを」
「あんたは信じてないよ。正直、あんたのことは噂にしか聞いたことがないからよく分からないしね。ただ、フェイトが信じるっていうんだ。私はフェイトを信じてるよ」
 目の前で言われると恥ずかしい。だが、それはフェイトにしても同じだ。自分はネルを信じているし、彼女は絶対に裏切らない人だということを知っている。
「なるほど」
 アイーダはフェイトとネルを改めて見比べる。
「予想以上の強敵でした」
「なに、別にあんたの邪魔をするつもりはないよ。本気なら本気だとぶつかってみな。案外簡単にオチるかもしれないよ」
「努力します」
 何やら不穏な会話がされているが、フェイトはあえて聞かない振りをする。
「というわけでフェイト、ファリン、アイーダ。ただちにアリアスに向かって、アストールを手伝ってくれ。ファリンはアストール直轄で、フェイトとアイーダは自由に行動してかまわない」
「ありがとう、ネル」
「ええー、私もフェイトさんと一緒」
「タイネーブでもいいんだよ?」
「がんばりますぅ!」
 分かりやすい子だ。もっとも常日頃アタックを受け続けているフェイトとしては気が気ではないが。
 そうして三人はネルが用意してくれたルム馬車に乗っていく。もちろん後部座席がアイーダとファリンで、前にフェイトが座った。
「ネル様という方は、とても良い方ですね」
 アイーダがぽつりともらした。
「そうですかぁ? 部下には鬼みたいな人なんですけどぉ」
「そのまま伝えておきますけどいいですか」
「フェイトさんとは一回きちんとお話しておかないといけないですねえ〜」
「まあ、ネルがいい人っていう意見は僕も同じだけどね。というより、ネルがいなかったら僕はこの国にはいなかったと思う。最初は自分勝手なことばかり言ってると思ってたんだけど、そうじゃなかった。自分のことよりも周りの人のことを優先するような、そんな人だから力になりたいと思ったんだ」
「わあ、それって惚気ですかぁ?」
 ファリンが冗談ぽく言うが、フェイトは首を振った。
「まさか。ネルも多分、僕のことは信頼してくれてると思うけど、お互いにそれだけだよ。何だかみんなして誤解しているようだけど、僕とネルはそういう仲じゃないんだ」
 ファリンはそれを聞いて大きくため息をついた。
「ネル様が可哀相ですぅ」
「だから」
「でも、だからこそ私にもチャンスがあるってことですよねえ」
「残念ですがそれは」
「フェイトさんは〜、いっつも私の熱い気持ちに応えてくれません」
 ぷん、と頬を膨らませるファリン。
「ファリン……様が選ばれないのは当然として」
「失礼なことを言うのはこの口ですかぁ!?」
「ふぇいふぉはんがへうははほ」
「ファリンさん、手を離してあげてくれませんか」
「フェイトさんがネル様のことを思っていないというのが意外でなりません」
 アイーダは首をかしげる。
「ネル様のところに婿入りすれば、クリムゾンブレイドの夫として国内でも一目置かれますし、それに何よりネル様は非常に良い方です。どうしてそういう気にならないのですか?」
「うーん」
 フェイトは腕を組んで考える。
「人を好きになるのに理由はいらないからなあ。正直何が理由でっていうのはないと思うよ」
「ですよねぇ」
「やはりフェイトさんのねらいはクレア様ですか」
「それもないけど」
「まあ、誰を選ぼうと私には関係のないことですが」
 これだけ人を振り回しておいてよく言えたものだと思う。
「アイーダはぁ、フェイトさんのことが好きじゃないんですかぁ?」
 えらく直球な質問がファリンから入った。
「そうですね。嫌いではありません」
「おおおお? もしかしてもしかする〜!?」
「邪推するのは結構ですけど、ファリン……様も現実を見た方がいい年齢ですよ」
「この口かぁ! この口かぁ! アイーダだって同い年のくせにぃ〜!」
 ファリンは誰と話をしていても漫才になるらしい。どうやらタイネーブとのコンビが漫才コンビなのではなく、ファリンが単体で回りの人間を巻き込んでいるということなのだろう。
(タイネーブさんにしてくれたらよかったのになあ)
 間違ってもファリンの前で口に出すことはできないが、フェイトは心底そう思っていた。





 そうしてアリアスについたのは日も沈んだ午後十時過ぎ。すぐに【炎】の詰め所に向かった三人はルージュとアストールの歓迎を受けた。
「久しぶりだね、フェイト。元気そうで何よりだよ」
 名前の通り赤い髪をした元気はつらつな女性、ルージュ・ルイーズがフェイトの胸を軽く叩く。
「ルージュさんもお変わりなさそうで良かったです」
「まあ、あんたも状況が分かってて来てるんだろうけど、正直次の日の朝が来るかどうかに怯える毎日はそろそろ辛くなってきたね」
 ルージュは肩をすくめた。
「次の日の朝って」
「私から説明いたします」
【闇】の一級構成員であるアストール・ウルフリッヒが代わりに説明を始めた。
「ここ数日発生している衰弱死事件ですが、人と時間に法則性があることが分かっているのです」
「人と時間?」
「はい。まず、衰弱死した者は全てシーハーツ軍の構成員であること。そしてもう一つは、深夜から明け方にかけて衰弱が進行するということ。つまり、夜に眠って朝になるまでに衰弱し、次の日かその夜には亡くなっているということです」
「夜から、朝にかけて」
「はい。衰弱死するといってもすぐではありません。前日まではすごく元気だったのが、次の日になると立っていられなくなるほどになり、そしてさらにその翌日には完全に死亡してしまいます。つまり、完全に衰弱死するまでに約一日がかかるということですね」
「たった一日で」
「それも、昼の間はそれほど衰弱が進行するというわけでもないんです。たいてい眠った後に亡くなります。寝ている間に亡くなるのですからそこまでは苦しむことはないでしょうけど、一度体調が悪くなったら次の日の朝がタイムリミットです。いまやアリアスでは睡眠することに対する恐怖は絶大なものです」
「アリアスだけに限った問題なら、倒れた人をペターニへ移送するとか」
「既に実行してみましたが効果はありませんでした」
「病気だと思うかい?」
「病気だとしたら、対象が構成員だけというのは不可解です」
 なるほど。アストールはしっかりと状況が見えている。さすがにネルが信頼する一級構成員だけのことはある。
「ルージュさんの見解は?」
「アストールと変わらないよ。だからといって解決策があるわけでもない。現状で手の打ちようがないのさ」
「どう思う? アイーダ」
「どうして私には聞いてくださらないんですかぁ?」
 ファリンが文句を言うが華麗にスルー。
「四級構成員の私に何を期待されているのですか?」
「もちろん四級構成員としてじゃないアイーダにいろいろと期待しているんだけど」
 そうやってぼかして伝えるとアイーダは少し考えてから「辺りを歩いてみて回りたいのですが」と答えた。
「そうだね。それが必要だと思う。ルージュさん、アストールさん。僕らはネルから単独行動を認められていますので、自由にやらせてほしいと思います。ただ、ファリンさんはアストールさん付きということですので、この場で引き渡しますので」
「ファリンが?」
 アストールがひどく嫌そうな顔をした。
「ちょっとぉ、それはどういうことですかぁ?」
「アストールは思ったことがすぐ顔に出るからね。代弁してあげようか?」
 にやりと笑ったルージュが言う。
「結構ですぅっ!」
「それならアストールの邪魔にならないように協力するんだね、ファリン。フェイト、誰か手伝いはいるかい?」
「いえ、今のところは。後でアーリグリフ戦役のときの資料を別件で見させてほしいんですけど、それだけです」
「分かった。準備させておくよ」
 そうしてフェイトとアイーダは詰め所から出ると、真っ暗になったアリアスを歩いて回った。
「どうだい、アイーダ」
「そんなすぐには分かりません」
 もしもアリアスで起こっている事件が霊に絡むものだとしたら、当然解決するのはゴーストハンターの仕事ということになる。
 それも、既に十人からの構成員を殺している霊だ。よほど強大な霊がいるに違いない。
「霊かな、それとも人為的なものかな」
「まだ分かりません。ただ、霊の存在は感じられます」
「感じられる?」
「はい。ちょっと、行ってみましょうか」
 アイーダが進む道を変える。
「そっちは確か」
「墓場があったはずですね」
「そりゃ霊もいるだろうね」
 ため息をつくフェイト。墓場に霊がいなかったら、いったい他のどこにいるというのか。
「さすがアリアス。大所帯ですね」
「見えない聞こえない」
「ええ、霊に慣れていない方は見えない方がいいです。苦しんでいる人の方が割合が多いですから。軽くトラウマになりそうです」
「そんなに?」
「はい。フェイトさんの足にしがみつこうとしている霊は、右足と右目がなくて内臓がはみ出」
「すみませんごめんなさいそれ以上いじめないでいじめかっこわるい」
「──あら」
 と、アイーダが目を向けた先にあった墓。そこに林檎が供えられている。
(あの子の墓だ)
 フェイトもよく知っている。かつてこのアリアスが戦場になったとき、一人の女の子が犠牲になった。もちろん、犠牲になったのは一人だけではない。ただ、フェイトにとっても顔見知りとなった小さなかわいい女の子だった。
「フェイトさんにお話がしたいそうです」
「ええっと」
 どう応えていいものやら。知らない人の霊だと怖くて仕方がないのだが、こうして知っている相手だと思うと逆に複雑な気持ちだ。
「林檎をいつもありがとうと母に伝えてほしい、と。それから?」
 墓に向かって頷くアイーダ。シュールな絵だ。
「……そう、そうですか。なるほど」
 アイーダは顔をしかめたまま頷く。
「何だって?」
「いえ。このアリアスに今、強大なゴーストが来ているそうなのです」
「ゴースト?」
「はい。なので、アリアス中の浮遊霊はこの墓場に逃げ込んでいるそうなのです。墓石というのは実態のない霊が自らを守るものでもありますから」
「へえー」
 としか言えない。他にどう言えと。
「どうやら、このアリアスで起こっている怪死事件は、そのゴーストの仕業のようですね」
「やっぱりそうなのか」
「ただ、それにしては私が気配を感じないというのが不可解でなりませんが」
 それほど強大な霊ならアリアスに入った直後に気づくくらいだとアイーダは言う。それこそ光王の霊の存在はシランド城から外に出ても感じるくらいなのだ。
「でも、アリアスにはその存在を感じない?」
「感じません。いったいどうやってうまく隠れているのやら」
 いるはずのものが見えないというのはアイーダをしても戸惑わせているようだった。
「あの子は、ここにいるの?」
「はい。今はフェイトさんの目の前に」
 言われて見下ろす。だが、その距離感が分からない。
 どれくらいの大きさの子だっただろうか。
 思い出そうとして、やめる。そのかわり、ここにいるはずの女の子の姿を感じ取ろうとした。
 そうして、そっと手を伸ばす。その頭をなでるように。
「教えてくれてありがとう。どうか、安らかに」
 瞬間、ふっと回りが暖かくなったような気がした。
「……すごい」
 それを見ていたアイーダが目を丸くして呟いた。
「何が?」
「お分かりではありませんか。今、フェイトさんはあの子を浄霊してあげたのです」
「浄霊?」
「はい。分かりやすくいうと、成仏したということです」
「分かりやすいね、それは。ということは、この子は何か思い残すことがあって留まっていたっていうこと?」
「もうここにはいません。ですが、そういうことです。あの子に蓄えられていたエネルギーが解き放たれて、周囲の温度が一瞬上がったはずです」
「ああ、霊って熱エネルギーを吸収してできるんだっけ」
「はい。この場合も──」
 と、何かを話しかけようとしてアイーダは突然手を握った。
「フェイトさん、こっちです急いで!」
 答える間もなく手を引かれるままに墓場から連れ出される。
「ちょっ、どうしたの、アイーダ」
「どうしたもこうしたもありません!」
 ここまで取り乱しているアイーダを見ることも珍しい。今日は珍しいことばかりだ。
 墓場から出てある程度距離を置いたところで、ようやくアイーダは足を止めた。
「何があったんだい、アイーダ」
「フェイトさんが浄霊したのを見て、他の霊たちがみんな浄霊を願ってフェイトさんに取り付こうとしていたんです。一体ずつなら無害に等しいですが、あれほど大量の霊に憑かれたら、いくらフェイトさんが常識外れでも無事ではすみません」
 僕は何か悪いことをしましたか。
「それは、霊のみなさんが助けてほしいって訴えてきたっていうことかな」
「有体に言うとそうですけど、とてもじゃないですが裁ききれる量ではありませんよ」
「十体とか二十体?」
 アイーダは首を振る。
「百、とか?」
 まだまだ。
「……聞かないでおきます」
「それが精神安定のためだと思います。私の目にはまるで津波のようでした」
 それは逃げたくなる気持ちも分かる。
「でも、放っておけないな。そんなにたくさんの人が苦しんでいるのなら」
「放っておいてもほとんどの霊は時間が経てば浄化します。特に死後間もない霊は、死んでから四十九日後にはこの世からあの世へ旅立ちます」
「そういうものなの?」
「私も霊界に詳しいわけではありませんが、そういうものらしいです」
「でも、あの戦争から四十九日なんてとっくに過ぎてると思うけど。それどころか半年も経っている」
「……言われてみれば、そうですね」
 大量の死者、さらにはあの女の子や怪我をした霊などの情報から、ほとんどの霊がアーリグリフ戦役でのものだと考えられる。
「もしかすると、あの戦争のときからこのアリアスには何かがあったのかもしれません」
「何か?」
「先ほどは圧倒的な数に思わず退きましたが、今こうしてよく考えなおしてみると、ただ救ってほしいという気持ちだけではなく、どこか悪意が感じられたように思います」
「悪意?」
「他の霊たちの感情が強くてよくは分かりませんが、そんな感じです」
「話を聞くことはできないのかな」
「無理でしょうね。フェイトさんが墓場に入ったらまた同じことになります。フェイトさんはただでさえ霊を活発化させる能力があるのですから、近づいただけで霊たちの動きは勢いを増すでしょう」
「近づきません」
「そう願います」
 それからようやく、アイーダはずっと握っていたフェイトの手を離した。
「思わずずっとつないだままでした」
「僕は別にかまわないけど」
「これ以上噂を広めたいのですか?」
「別に僕は困らないよ。事実かそうでないかは自分が決めればいいことだ」
「至言ですね。巻き込まれる私のことを慮ってくだされば、ですが」
「僕はアイーダに好かれているのかな、嫌われているのかな」
「話が飛躍しすぎです。私はフェイトさんを嫌っているつもりはありませんが」
 こほん、と咳払いを一つ。
「ただ、まだ出会ってから一週間も経っていないんです。お互いのことを知ることの方が先でしょう」
「それもそうだな」
 まったくこの子は、積極的なのか消極的なのか。ゴーストのことになったらこちらの都合などまったくかまわないくせに。
「一旦戻りましょう。町の様子はだいたい分かりました」
「了解」
 もう日も変わろうかという時間になって二人はようやく領主屋敷に戻ってくる。中ではまだ【炎】の上層部がせわしなく働いていた。
「まだ寝ないんですか、ルージュさん」
 話しかけた相手は少しうとうととしていたが、頭を振って「まあねー」と答える。
「正直、あまり寝たくないっていうのもあるし」
「自分も病気になるかもしれないから、ですか?」
「うん。こう、朝になった途端にけだるくなってたらどうしようとかね、やっぱり考えるよ」
 自分たちにはまだその恐怖は分からない。目の前で友人や部下たちが倒れていくのを目の当たりにしていない。
 だが、この状況が深刻なものであるのは明らかすぎるほどだ。
「夜起きて昼間に寝るっていうのは駄目なんですか」
「交代制にして試してみたけどね」
 つまり効果はなかったということだろう。
「分かりました。原因をつきとめましょう」
「分かるのかい?」
「アイーダならきっと」
「ふうん?」
 ルージュが【土】の四級構成員を見る。
「ルージュさんはアイーダのこと知ってるの?」
「そりゃ血統限界値が三十もある四級構成員なんて他に知らないしね。アタシですら三十三なんだよ。うちの部下に欲しいくらいさ」
「アイーダには【炎】は無理だと思うよ」
 フェイトが苦笑してフォローを入れる。
「どうしてだい?」
「アイーダは【シランド】専属なんだ。今アリアスに来ているのは、アイーダじゃないとこの事件が解決できないと僕が感じたから、ついてきてもらってるんだよ」
「ふうん」
 ルージュがにやにやとアイーダを眺める。
「随分と気に入られたもんだね、アイーダ」
「恐縮です」
「でも、気をつけなよ。ファリンを筆頭に、フェイトのファンは多いんだから」
「ありがとうございます」
 アイーダはその小さい体を傾ける。黒く短い髪がさらりと揺れる。
「さて、フェイトの言っていた資料はあんたの部屋に置いてあるよ。寝る前に読んでおきな」
「助かります」
「アタシもそろそろ寝るかな。さすがに寝るのが怖いなんて言ってばかりもいられないからね」
 おやすみー、とルージュは会議室を引き上げていく。
「どういうつもりですか」
 直後にアイーダから詰問がきた。
「何が?」
「あそこまで私を持ち上げられたら、余計な期待をかけられるじゃないですか」
「大丈夫。そのときは恥をかくのは僕だから」
「フェイトさん」
「僕はさ、アイーダ」
 真剣な表情でアイーダを見つめなおす。
「今までずっと君は、人々のためにがんばってくれていた。それなのに解決しても誰もアイーダに感謝すらしてくれない。知られてもいない。そんな状況が嫌なんだ」
「私は日の目を見るわけにはいかないんです。影からこの国を守るのがゴーストハンターなのですから」
「でも僕は嫌だ」
 ここは引けない。たとえアイーダにどんな事情があったとしてもだ。
「アイーダを褒め称えろなんて言ってない。でも、みんなにアイーダのことを認めてもらいたいんだ」
「必要ありません。私は今までもこれからも一人でやっていくのですから。私に近づけばゴーストに祟られる可能性だってある。私に近づかないというのは危険から身を遠ざけることでもあるのです」
「でも、僕は違うだろう?」
 アイーダは言葉に詰まる。
「僕は自分で自分の身を少しは守れる。アイーダの手伝いもできる。そして、アイーダが一人でいることから守ることだってできる」
「恥ずかしいことを言わないでください。本気にしたらどうするんですか。さっきも言ったはずです。私たちはまだ出会ったばかりでお互いのことを何も知らない」
「突拍子もない子だっていうのは分かってるよ。でも、僕は君を一人にするつもりはない」
 ふう、とアイーダがため息をつく。
「あなたのことが嫌いだったら、軽蔑してすむことなのですが」
「嫌われていなくて良かったよ」
「でも、私にもゴーストハンターとしても使命があります。長い間抱えてきたものです。変えようと思って簡単に変わるものでもありません。フェイトさんの気持ちは嬉しいですが、しばらくは考えさせてください」
「もちろん。僕だって性急に答を聞こうと思っているわけじゃない」
「疑わしいことですね」
 やれやれとアイーダは愚痴る。
「でも、フェイトさんのお心遣いは本当に感謝しています。それは本当です」
 それだけ言い残してアイーダも部屋を出ていった。
「まったく、素直じゃないなあ」
 その言葉を聞けただけでも、今はよしとしておこう。





(また、この夢だ)
 もう自分に何が起こっているのかは理解できている。過去の夢。アーリグリフ戦役時の夢だ。
 それもおそらくは現実に起こっていたこと。そこに自分が登場人物としてもぐりこんでいる。
(ここは?)
 どうやらアリアスの中のようだ。崩れた壁や、壊れた建物。自分はそれを眺めていた。
「やれやれ、アーリグリフの奴ら、徹底的にやってくれやがったな」
 すぐ後ろから声がかかった。見たことのない顔だった。右目の下に傷がある。ネルと同じような赤い髪が腰まで伸びている。団章を見ると【土】となっている。ペターニ防衛軍である【土】のほぼ全軍がこのアリアスに集結していたというのは、資料を読んで熟知していた。
「民間人にも犠牲者が出ましたね」
「出たな。こんな戦争で死にたくなんかなかっただろうに。せめてアペリスのところに迷わず行けるといいんだがな」
 もし、迷ってしまったらどうなるのか。それを彼はよく知っている。あの墓場にいた、大量のゴースト。
「本当にそう思います。ゴーストになってまでこの世界にしがみつくのは可哀相ですから」
 相手の男は自分の言葉に目をむいて反応した。
「今、何て言った」
「はい?」
「ゴースト。そう言ったか」
「はい。言いましたけど……何か問題でも?」
「そうか。いや、お前、ゴーストなんてものを信じているのか?」
「はい」
 実際目にしたし、そこに存在するものを否定しても仕方が無い。ただ、見たことがない人間にとっては否定したくなるのは分かる。
「そうか……」
 男は顔をしかめた。
「お前に頼みがある」
 男はそう言って声を低くした。
「もし俺が死んで、お前が生き残ったら──」





 そこで、目が覚めた。
(僕が生き残ったら?)
 そして現在、きちんと生き残っている。というより、過去の記憶を現在に持ち帰って来ている。
(どうしてそんなところで目を覚ますかなあ)
 うん、と伸びをする。具合は悪くない。どうやらアリアスのゴーストは自分には取りつかなかったらしい。
 扉を開けて会議室に向かう。途中ですれ違う人と挨拶。
 そして扉を開けた。中にはルージュとアストール、さらにはアイーダの姿もある。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。無事だね、フェイト」
 起きるたびにそうした確認をしているのは、それだけ未知の災害に対する恐怖が強いためであろう。
「ファリンさんは?」
「ああ、朝方まで仕事をさせたからね。今頃はぐっすり寝てると思うよ」
 アストールがにこにこ笑顔で言った。意外に強権の持ち主だ。
「ルージュさん、資料ありがとうございました」
「いや、何。役に立ったかい?」
「ええ。いろいろと知りたかったことが分かりました。それで、一つ聞いておきたかったんですけど」
「ああ、いいよ」
「ネルと同じような赤毛で腰くらいまで長くて、右目の下に傷がある──」
 と、そこまで言ったとき、自分の手をアイーダが掴んだ。
「えと、アイーダ?」
「どこで、その人のことを」
「あ、いや、えと」
「すみませんルージュ様。この人と緊急に話ができました。失礼します」
 するとアイーダはその小さな体で恐ろしい力を発揮した。フェイトを強引に引きずって誰もいない部屋に連れこむ。
「どうしたの、アイーダ」
「師匠です」
「……は?」
「先代です。五代目、ゴーストハンターです。先ほどフェイトさんがおっしゃったのは!」
 取り乱しているアイーダは珍しいなあ、などということが先に頭の中をちらついた。それからようやく言葉の意味を悟る。
「前の、ゴーストハンター……確か、アーリグリフ戦役で亡くなったって」
「そうです。私はまだ術を教わっている最中でした。四級構成員にはなっていましたけど、最悪の場合は自分がゴーストハンターを継がなければいけないので、師匠に無理やり後方勤務にさせられたんです」
「名前は?」
「レンジ。師匠は当時【土】の二級構成員でした」
「二級?」
「はい。師匠は人付き合いが私ほど下手じゃなかったので、それなりに他の人たちとも交流されていました。ただ、霊のことは誰にも話したことがありませんでしたが」
「そうだったのか。確かに立派そうな人だったけど──」
 と言ったところで、アイーダが自分の首ねっこを捕まえてきた。
「立派そうってどういうことですか! まるで師匠に会ったようなその口ぶりはなんですか!」
「お、おぢづい」
「これが落ち着いていられますかあっ!」
 あやうく失神しかけたフェイトだったが、アイーダが首元を緩めてくれたのでようやく話ができるようになった。
「あ、アイーダも我を忘れるっていうことがあるんだね。驚いたよ」
「そんなことはどうでもいいんです。フェイトさん。師匠のこと、どうやって知ったのですか」
「夢で」
 アイーダが一度怒ったような顔をして、それからゆっくりと表情が戻っていく。
「そういえば、一昨日もそんなことを言ってましたね」
「続き物の夢なんだよ。それもアーリグリフ戦役のときの」
「それでアリアスまで資料を調べに来たというわけですか」
 困ったようにアイーダが首をひねる。
「具体的にその夢の内容を話していただけますか?」
 続き物の夢、さらにはアイーダの師匠もそこに出てきた(しかもフェイトの知らない人間だ)とあれば、無視するわけにもいかない。フェイトは細かく夢の内容を説明する。
「なるほど。話に聞く限り、確かにアーリグリフ戦役の頃のようですね」
「僕に話しかけてきたのがアイーダの師匠の」
「レンジ様です。それから、フェイトさんを弓で助けたという人物ですが、おそらくは【炎】の先代団長ルーファ様ですね」
「ルーファ?」
「はい。ルージュ様を鍛えた方です。弓の命中率は百発百中とか」
「その人も戦役のときに?」
「いえ。戦役のときは既に引退しておられました。あの戦役のときだけ、アドレー様に説得されて参加されたということです」
 現場に出なかったアイーダですら知っているということは、よほどの有名人ということなのだろう。まだ存命なら後で感謝しに行かなければ。
「レンジ様はいったい、何を言い残そうとされたのでしょう」
 アイーダが目を伏せて考える。だが、もちろん答など分かるはずがない。
「夢の続きが見られるといいんだけど」
 と言うと、アイーダはじろりとフェイトを睨んだ。
「えと、アイーダ?」
「寝てください」
「いや、今起きたばか」
「今すぐ寝てください。レンジ様の遺言をきちんと聞き届けてきてください」
「いやいやいやいや。その場面がまた見られるなんていうことはないはずだし」
「だったら夢の中でレンジ様に会いにいってもう一度聞けばすむことです」
 そんな無茶な。
「私は墓場に行ってみます」
「墓?」
「はい。師匠の墓もそこにあるはずです。何か分かるかもしれません」
「僕は──」
「寝てください」
 ここまで言い切られると、それ以外に何もできないように感じてしまう。
「だいたい、墓場に来るとまた昨夜のようなことになりますよ?」
「ゆっくり寝かせていただきます」
「はい。夢を見終わったらすぐに起きてくださいね」
「何その無茶ぶり」
「では、私は墓場へ行ってまいります」
 アイーダが一礼して出ていく。やれやれ、と思いながらフェイトもまた自分の部屋へ向かった。
 そのときだ。
「フェイトさぁん」
 後ろから飛びついてきたのは【闇】の二級構成員だった。
「おはようございます、ファリンさん」
「おはようございます〜。フェイトさんも元気そうで何よりです〜」
 目が覚めたら体調が悪くなっている。そんなことが現実にこのアリアスでは起こる。気をつけてどうなるものでもないが、お互いの体調は知っておかなければ気持ちが落ち着かない。
「ファリンさんも無事みたいですね」
「そうでもありません〜。夜明け近くまで仕事させられたからぁ、も〜、睡眠不足でしてぇ」
 ふあ、と小さくあくびを一つ。これも意識してやっているのだとしたら相当の策士だ。
「体調が悪くなるようなら、すぐに誰かに言ってくださいね」
「わかりましたぁ。フェイトさんはどうされるんですかあ?」
「アイーダの命令に従って寝てきます」
「はあ?」
「寝るのが僕の仕事みたいです。というわけで、おやすみなさい」
 苦情の声を後にして、フェイトは自分の部屋に入るとベッドの上に横になる。
(寝たら自分に万が一のことがあるかもしれない。でも、寝ないと夢は見られない)
 夢の中に、何か大切なことが隠されている。アイーダはそう感じ取ったし、自分もまたそう思う。
 だからこそ、危険ではあっても。
(眠らないとな)
 精神を落ち着けて、呼吸を深くして、ゆっくりと意識を埋没させていった。





(よし)
 どうやらうまく眠れたらしい。また夢がきちんと見られた。
 場所はまたアリアスのようだ。戦いが起こっているという様子ではない。それもかなり遅い時間だ。
 軍資料では、アリアスの中に敵の侵入を許したのは一度だけ。大きな戦いはこの後、あのバンデーン艦が現れる最後の決戦までは生じなかった。ならば、その戦いまでは安心して待っていられるはずだった。
(でも、僕はレンジさんに会わないと)
 彼は領主屋敷に急いだ。見張りの兵の敬礼しているところを通り抜け、屋敷の中に入る──
「すみませぇん」
 と、そこに声がかかった。
「ちょっといいですかあ?」
「ファリンさん」
 ファリンとタイネーブの二人は、修練場から戻ってくる分にはそれほど大きな怪我はなかった。だが、鉱山でアルベルにやられた怪我はあの戦いまで尾を引いたということだった。
 今も片腕を包帯で吊るしている。それでも動かなければならないほど、人手と時間とが不足していた。
「すみません、レンジさんを探しているんですけど、どちらにいるか分かりますか?」
「ええ、レンジさんならさっきルージュ様のところに行きましたけどぉ……」
「ルージュさんのところか。それなら話が早い」
 ジト目でファリンはこちらを見てくる。
「? 何かありますか?」
「当然ですぅ。どうしてあなた、ルージュ様をさんづけにするんですかぁ?」
 と言われても、自分は今までもルージュのことはそう呼んできたはずだった。
「そういえばそうですね」
「そういえば、じゃありません!」
 珍しくファリンが声を荒げた。
「は?」
「あなた、四級構成員なのにそんな言葉づかいが許されると思ってるんですかぁ!?」
「いや、ちょっと、待って」
「待ちません〜! それとも【土】はそんなふうに言葉づかいが乱れてるんですかぁ!?」
「いやいやいやいや、僕が四級構成員って、いったい何の冗談ですか。僕はシーハーツ軍に入ってるわけじゃないんですよ!?」
 そこまで言って、初めてファリンが表情を整えた。
「連鎖師団【土】四級構成員パトリック!」
 知らない名前だった。
「誰ですか?」
「何をとぼけてるんですか!」
 あのファリンさんが大声をあげているのはとても貴重な図だと思う。
「あなた自身のことです!」

 ……。

「ワンスモアプリーズ」
「あなたは【土】の四級構成員、パトリックでしょう?」
「フーアムアイ?」
「だから、パトリック! 何回言わせるんですかぁ!」
 知らない名前だった。
 そしてファリンさんがとぼけているわけでも何でもないというのが分かる。この時期なら既に『フェイト』はファリンと会っているはずだった。
「ええと」
「とにかく、ちょっと根性叩きなおす必要がありそうなので、こっちに来てくださいねえ」
 顔が笑っていない。怖い。ファリンさんって部下にはこんななのか。
「何やってるんだ、ファリン」
 と、そこへ年配の男性がやってくる。赤髪で目の下に傷──レンジ、という人物だろう。
「あー、レンジさん。ちょっと聞いてくださいよぉ。【土】の四級さんがあ」
「ああ、こいつな。ちょっととぼけたところがあるんだ。俺が気合入れなおしておくから、任せといてくれ」
「もー、部下の教育くらいしっかりしてくださぁい」
 怒り気味にファリンはどこかへ行ってしまう。
 だが、それよりも問題は。
「レンジ……さんですよね」
「ああ。お前はパトリックか? それとも一昨日会った『別』のやつか?」
 この人は。
 たった一回会っただけなのに、自分の状況を完全に理解しているというのか。
「別のやつです。僕自身、ここに来たのはまだ四回目ですが、三回目のときにあなたに会いました」
「そうか。まあ、こんなところで話をするのもなんだな。ちょっとこっち来い」
 そうしてレンジは彼を近くの部屋に引っ張り込んで、すぐに話を再開した。
「前回はすぐにいなくなったが、今回もあまり時間がないのか?」
「分かりません。できるだけこっちに長くいて、いろいろと話を聞いてこいと言われましたので」
「言われた? 誰に」
「アイーダにです」
 そう答えるとレンジはなるほどと苦笑した。
「扱いずらいだろう、アイーダは」
「ええ、まあ」
「だが、アイーダが他の奴と話をするとはな。俺以外に頼みごとをするのは初めてじゃないか」
「かもしれません」
「で、ちなみにお前さんは誰だい?」
「フェイト・ラインゴッドといいます」
「フェイト?」
 まじまじとレンジは彼を見つめる。
「さっき、そこで見かけたぞ、俺」
「そうだと思います。正確には僕は半年後のフェイト・ラインゴッドです。理由は分からないんですが、ここ数日眠ると必ずこの戦役の夢を見るようになってしまって」
「悪いがここは夢の世界じゃなくて現実の世界だ。お前さん、寝た瞬間に意識がこの世界のパトリックっていう人間に入り込むようになったみたいだな」
「……随分、詳しいですね」
「俺も昔、そうなったことがある」
 なるほど、それなら状況がつかめるはずだ。
「お前さんからは聞きたいことがたくさんあるが、先に伝えておきたいことがある。この間、教え切れなかったことだ」
「はい」
「ヴォックスの奴は、死んでも霊魂をこの世界に残せる特殊な精神の持ち主だ。あいつを殺せば、あいつの精神がゴーストとなってこの地に呪いを残すことになる」
「ヴォックスが犯人だったのか!」
 犯人というか犯ゴーストというか。いずれにしてもこれで敵の正体が分かった。
「あいつを殺した後、あいつの魂を消滅させなければならない。半年後の世界に俺は生きていないな?」
 彼は顔をしかめた。
「どうしてそう思うんですか」
「お前が俺のことをよく分かっていないようだったからな。だがアイーダは生きている」
 わずかな情報から冷静に状況を分析できている。かなり優秀な人間だ。
「アイーダにはあまりゴースト撃退の術を教えていない。奥義書の本が入った保管庫の背紋をルージュ様に伝えておいた。『レンジから美味しいミルフィーユの店を教えてもらうように言われた』と伝えれば教えてくれるはずだ」
「甘党ですか」
「砂糖なしじゃ生きていけねえよ」
 レンジは苦笑する。
「だが、アイーダの件は置いておこう。いずれにしてもヴォックスをどうやって倒すかだ。ゴーストハンターの力だけではヴォックスのゴーストを倒すことはできないはずだ」
「どうすれば」
「戦士の力が必要だ。ゴーストに直接ダメージを与え、ヴォックスの防壁を破らなければならない。防壁を破るには、同じ力をぶつけなければならない。アイーダに『防壁を破れ』といえば通じるはずだ。あとは戦士だが」
「ああ、それなら僕がやります。ただのゴーストなら戦える力が僕にはありますから」
「本当か?」
「ええ。この頃の僕には無理でしょうけど、今の僕ならできます。剣に施力を込めて攻撃するんです」
「それはそれは……アイーダはとんでもないパートナーを手に入れたもんだ。過去、そんなことができた人間はゴーストハンターの歴史にはないぞ」
「それも言われました。ついでに言うなら、僕はそこに存在するだけでゴーストを活性化させる力があるそうで、普段隠れているゴーストも僕が近づくことで実体化できるそうです」
「ははあ、俗にいう『霊感が強い』って奴だな」
 その一言ですまされては、危険なゴーストに何度も出会わされたのがとても残念な気がしてしまうのだが。
「アイーダは霊感がゼロに近いからな。もっとも、あれくらいの才能だと多感すぎたら逆に押しつぶされるかもしれん。いいコンビだよ」
「そうなんですか? 僕には見えない幽霊とか見えてますけど」
「霊視の力な。あいつ、生まれたときからその力があるんだよ。おかげで村じゃ忌み子扱い。かわいそうなもんさ。初めて会ったのが五歳のときだったが、そのとき既に心を閉ざしていた。よっぽど子供のときから苦しい思いをしてきたんだろうな」
「アイーダの過去、か」
 そういえば全く聞いたことがない。というより、まだ出会って一週間かそこらだ。
(確かにアイーダの言う通りだな。アイーダがこれまでどう生きてきたのかも知らないで、虫のいい話だった)
 自戒する。だが、自分がアイーダのことを憎からず思っているのも事実。
 知らないことは、これから知るようにしていけばいい。
「俺の後継者に、これほどの才能を持つ子は他に出てこなかっただろうし、俺が引き取るといったら親は喜んで──表面的にはとても残念そうにしていたが、譲ってくれたよ」
「アイーダは?」
「自分がどうなってもかまわないと決めていたらしいな。だが、あの村にいるよりはずっと幸せに育ててやったという自信はある」
「なるほど」
「というわけでアイーダは俺の娘も同然なんだ」
「そうですね。子供の頃からずっと育ててるんですから──」
 と、言いかけて突然殴られた。
「なに、を」
「なあに、父親として、娘を奪いに来た色男を殴るっていうシーンを、死ぬ前に一度体験しておきたかっただけさ」
 にやり、とレンジは笑った。
「アイーダを頼む。俺がいなかったらあいつはきっと壊れていく。あいつを支えてやってくれ」
「分かりました」
「ヴォックスのことも頼む。あいつが死ねば、あいつはアリアスのどこかに潜伏するはずだ。その場所をまずは突き止めろ」
「はい」
「すまんな。具体的なアドバイスもできないで」
「いえ。ただ、僕がおそらくこの時間に何度も来ていたのは、レンジさんからこのことを教えてもらうためだったと思います。ありがとうございました。それから──」
 彼はレンジを正面から見た。
「僕は、アイーダを必ず幸せにします」
「陳腐な台詞だ。だが、心がこもっている」
 レンジは自分の胸を軽く叩いた。
「頼むぜ、フェイト・ラインゴッド」
 それがきっかけになったかのように、彼の意識は暗転した。





(何時だろ)
 おそらく、今までで一番長い夢だった。レンジと話した内容。それを知るために、今まで過去の旅を続けてきたのだろうか。
 理由はいくつも考えられる。だが、一番はおそらく、
(自分の愛娘のことが気がかりで、レンジさんが僕を呼び寄せたということじゃないのかな)
 だが、まさか過去に戻って自分が話を聞いてくることができるとは全く思わなかったが。
 それに、自分が体験したことが過去の事実であることを証明する手段がたった一つだけある。
 フェイトは思い立って部屋を出た。寝すぎたせいか、体が硬くなっている。もう日が傾き始めている。
「すみません、ルージュさんいますか」
 会議室に入ると、ルージュやアストール、ファリンがそこで話し合っていた。
「あ、フェイトさあん」
 にこにこ笑顔のファリン。だが、あの笑顔は作りものだ。その裏には恐怖という二文字が隠れている。
「ああ、フェイト。随分とゆっくりしてたみたいだね」
「ええ。ちょっと人と話をしてきたので」
 二度寝したことを言っているのだろうが、こっちも情報収集の旅だったのだ。
「レンジさんから聞いたんですけど、美味しいミルフィーユの店をルージュさんから教えてもらうようにって」
 その言葉がルージュに与えた影響は絶大だった。そして顔を曇らせて答える。
「……そう。レンジに、ね」
 ルージュは一度アストールを見てから、ちょっと待ってて、と言い残して会議室を出る。しばらくして戻ってくると、ルージュは一枚の紙を手渡した。
「地図があるから、ここに行ってごらん」
「ありがとうございます」
「フェイトはいつ、レンジから聞いてたの? レンジはそのこと、誰にも教えていないって言ってたのに」
「ルージュさんの後に教えてもらいました。戦争が始まる直前です」
「そう。フェイトがそうだったんだ……」
「レンジさんからは何か?」
「いいえ。ただ、いつか聞きにくる奴がいるから、そうしたらそれを渡してくれって言われただけよ」
「そうでしたか」
「まあいいわ。すぎたことを言っても仕方ないことだものね」
 そうして話しているときだった。
「あれ?」
 ふらり、と体が揺れる。
 揺れたのは他でもない。
 ファリンの体。
「ファリンさん」
 どさり、と倒れる。
「ファリン!」
「ファリン!」
 アストールが抱き起こし、フェイトとルージュが駆け寄る。
「どうしたんだい、ファリン」
「あ、いや、半分徹夜だったから、ちょっと疲れたかな、って」
「たかが一日徹夜したくらいで倒れるような奴じゃないだろ!」
 もちろん、もう誰もが分かっている。
 このアリアスで、倒れるということが何を意味するか。
「医者を!」
「大丈夫ですぅ。本当に、ちょっとたちくらみしただけですからあ」
「ファリンさん」
 フェイトはその手を握って彼女を見つめる。
「お願いですから、言う通りにしてください」
 するとファリンは嬉しそうに微笑んだ。
「フェイトさんのお願いなら、きかないわけにはいきませんねぇ」
「ベッドまで運びます」
 フェイトはそのままファリンを抱きあげて運ぶ。具合が悪そうなファリンだったが、その表情はとても穏やかだった。
「こんな素敵なことがあるんだったら、アリアスの病気にも感謝しないといけないですねぇ」
「何言ってるんですか。ファリンさんは元気なのが一番ですよ」
「フェイトさんからそう言ってくれるなんて、本当にいい一日ですねえ」
 だが、これは冗談ごとではない。確実にファリンの命がかかっているのだ。
 すぐに医者が診察する。無論、結果は分かりきっていることだ。
 フェイトたちは別室に移って病気のことを具体的に確認する。
「ルージュさん。あれくらいの症状になってからだと、だいたいどれくらいが目安ですか」
「夜を越えることができるのは二回だけ。三回越えたやつはいない」
「昨日が一回目だから」
「明日いっぱいがリミット、だね」
「それまでに解決しなければ」
 ファリンの命は失われる。そういうことだ。
「一分一秒でも早く解決します」
「当たり前だよ。私だって大切な部下が何人もやられてるんだ」
 当事者になるのとならないのとでは、これだけ意識に差があるということだ。フェイトも自分が当事者となってようやく分かった。
 突然に襲いくる死の恐怖。次の日には隣にいる人間に死刑宣告が出されているという事実。
「とにかく、まずはアイーダと合流しないと」
 こちらが掴んだ事実をアイーダに伝え、このアリアスに隠れているヴォックスを見つけ出さなければならない。
「アイーダなら本当にこの問題を解決できるのかい?」
 ルージュが尋ねてくる。
「できますよ。もちろん、僕も手伝いますけど」
「アタシたちにできることは?」
「残念ですが、分野が違います。現状では何も」
「分かった。何かできることがあればすぐに言ってよ」
「分かりました。もしアイーダが戻ってきたら、この屋敷にいるように言ってください」
 そして領主屋敷を飛び出していく。そしてまっすぐに墓場に向かう。
 そのアイーダは墓場の中にいた。随分と長いこといるようだ。自分が寝て、起きるまで、ざっと数時間。その間ずっとここにいたということか。
「アイーダ!」
 墓場の外から中に向かって大きく声を出す。すると、それに気づいたのかアイーダが何かを持ってこちらにやってくる。
「大きな声を出さなくても聞こえます」
「ごめん。中に入るとまた、この間みたいなことになるかと思って」
「昼間からゴーストはそんなに盛んに活動はしません」
「……確か、昨日みたいなことになるって言ったのはアイーダだったと思うけど」
「役割分担が効率的に行えたと思いますが?」
 言葉のアヤということか。まったく、人を使うのがうまい。
「何をしていたんだい?」
「師匠の墓からこれを見つけました。おそらく、師匠が持ち歩いている奥義書が入っていると思います」
 小さな保管庫。本が一冊入るくらいの。
「開けようと思って解錠しようとしていたのですが、さすがに師匠の施紋は生半可じゃありません」
「これを試してみてくれるかい」
 フェイトが先ほどルージュから渡された紙をそのまま渡す。
「……なんですか、このふざけた施紋は」
「僕にはどうふざけてるか分からないけど、多分信頼できると思う」
「まったく」
 ものは試しとばかりにやってみると、すぐにその効果が現れた。鍵が開き、保管庫の扉が開く。
「……開きました」
「よかったよかった」
「……一つだけうかがいますが、この施紋をどこで?」
「寝ているときにレンジさんが、ルージュさんに渡しておいたからって。さっきルージュさんから受け取ってきた」
「そうですか」
 はあ、とアイーダはため息をつく。
「師匠も余計な気をきかせなくてもいいのに」
「余計なって、どういうこと?」
「フェイトさんは気にしなくてもいいんです」
 なんだか怒ってしまったらしい。そうなるともう何も聞くことができない。
「やっぱり、奥義書ですね」
 かなり古い本が出てくる。ぱらぱらとめくり、頷く。
「私はこれを先に読んでおきたいと思います」
「それはいいけど、ちょっと状況がまずくなってきた」
「まずいとは?」
「まず、ファリンさんが倒れた。例の病気で」
 アイーダの表情に変化はない。
「次は?」
「この現象を操っているのはヴォックスの霊だって言ってた。アリアスのどこかに隠れているらしいけど、場所が分からない」
「まだありますか?」
「ヴォックスは『防壁』を持っている。『防壁を破れ』と伝えろって言われた。それでアイーダには意味が分かると」
「そうですか。ちょっと面倒なことになりそうですね」
 アイーダは初めて表情を変えた。
「他には?」
「いや、それで全部」
「では、急いでこの本を読んでしまいます。これだけの災厄を起こすことができるゴースト、手持ちの技だけでは足りないかもしれません」
 一理ある。もしヴォックスと対峙できたとしても、自分たちが負けてしまっては意味がないのだ。
「大丈夫です。ファリン……様が倒れたとしても、まだ一日経過しただけ。明日中に解決できれば何とでもなります。その間にフェイトさんにはやっておいてもらうことがあります」
「何だい?」
「このアリアスを、すみからすみまで歩きぬいておくことです。フェイトさんはゴーストを活性化させる。一度通りがかるだけで、ヴォックスのゴーストを揺さぶることができるかもしれません。動きが見えればあとは私が呼び出します。ヴォックスと戦うのはお任せしてもよろしいですか?」
「もちろん。僕だって何があってもファリンさんを助けたいからね」
 するとアイーダは言葉を止めた。
「何?」
「フェイトさんは、ファリン……様を、どう思っているのですか?」
「どうって、大切な仲間だと思っているけど」
「そうですか」
 アイーダは表情をくもらせる。
「ファリン……様は、フェイトさんのことを本気で思っています。フェイトさんにそのつもりがないのなら、あまり期待を抱かせるようなことはしない方がいいと思います」
「期待?」
「倒れたファリン……様を抱えて運ぶようなことです」
「どうしてそれを」
「後ろの方から教えてもらいました」
「おのれ父さん」
 もちろん自分の守護霊などそれくらいしか思い浮かばない。霊をいつでも見ることができるアイーダにとって、霊と会話することもたいした難しいことではない。
「あと、それからこれは伝言でもなんでもないけど」
「何でしょう」
「アイーダは才能は過去のゴーストハンターの中で一番だ、ってレンジさんが言ってたよ」
「そうですか」
 意外に感慨が少ない、と思ったがそうではなかった。
「後で教えられても困ります。直接言っていただかないことには」
 少しだけ目がうるんでいた。アイーダにとって実の親以上の親。彼女を認めてくれた唯一の人。
「行きましょう。今はやることが多いですから」
「ああ。僕はあちこち走り回ってくるから」
「歩くだけでいいんですよ」
「アリアス全部歩いてたら日が暮れて上ってまた暮れるよ!」
 急がないといけない。それこそ一日中でも今は動き続けることが必要だった。





 夜中になってようやくフェイトは領主屋敷に戻ってくる。待ち構えていたかのようにアイーダが出迎えてくれた。
「一通り回ってこられましたか」
「お疲れ様の一言もいえないかねこの子は」
「ファリン……様は大丈夫です。今のところは」
「それは信じてるから大丈夫。アイーダは?」
「一通り。修行しないと使えないものは読み飛ばしました。それでは、いきましょうか」
「行くって」
「もう夜です。今ならゴーストも活発に動き回れる時間帯。ヴォックスを見つけるにはいい時間です」
「僕の疲労は」
「ファリン……様を助けたくないのですか?」
「行きます」
「よろしい。まずは墓場に行きます」
 しかもそこからですか。
「不満がありそうですね」
「また襲われたりとかしませんか」
「私がフェイトさんの姿を霊から隠します。それで大丈夫……だといいですね」
「なんでそこで投げやりになるのかな!? かな!?」
「いずれにしてもあの墓場のゴーストたちに話を聞かなければヴォックスの居場所も分かりません」
 既に行動指針は決まっていたらしい。もちろんフェイトには反対する理由などない。
「せめて疲労回復だけでもできればなあ」
 ため息をつく。するとアイーダはきょろきょろと周りを見た。
「フェイトさん。少しよろしいですか」
「なに?」
「黙って」
 するとアイーダは近づいてくる。何かとてつもなく嫌な予感──
「あの、無表情で迫られると怖いんですけど」
「疲労を回復してほしいのでしょう? 近づかないとできません」
「ゴーストハンターの技とかですか?」
「まあ、そのようなものです」
「じゃあ、お願いします」
 何をされるか分からなかったので、あえて目をつむる。
 すると、

 頬に、軽く、唇の熱さが。

「疲労、回復しましたか?」
 目を開けると、すぐ前に照れて真っ赤になったアイーダがいた。
「……した。すごくした」
「それはよかった。このやり方は少々恥ずかしいので、あまりしたくなかったんですが」
 よく自分の体に注意を向けると、冗談ごとではなく確かに疲労が回復している気がする。精神的なものではなく、肉体的にだ。
「あれ、本当に回復してる?」
「気づいてください。それくらい」
「今のキスに、何か効果があったの?」
「はい。疲労回復のおまじないみたいなものです。本当は口付けが一番効果が大きいのですが、それはさすがに」
「うん。それは次の機会にとっておくよ」
「……あまり純情な少女をたぶらかさないでください」
「たぶらかすなんてとんでもない。僕は本気だと言ったはずだよ」
「私は、フェイトさんのことは気に入っていますし、嫌でもありません。ただ──」
 アイーダは顔を曇らせる。
「私は、【人】が信じられません」
「……」
「すみません。今するべき話ではありませんでした。行きましょう」
 アイーダは先に立って歩いていく。
 さっきまではすごく嬉しい気持ちだったのに、どうして今はこんなにもやるせないのか。
『おかげで村じゃ忌み子扱い。かわいそうなもんさ』
 レンジの言葉が頭をよぎる。子供の頃に彼女はいったいどんな仕打ちを受けていたのか。
(いつか、アイーダから話してくれるまで待たないとな)
 そしていつの間にか、彼女に本気になっていることに気づいたフェイトは苦笑していた。





 墓場。昨夜、フェイトが大量の霊に襲われた場所だった。
 目に見えないものがいつ襲い掛かってくるかも分からない恐怖。いくら隣にゴーストハンターがいるとはいえ、フェイトは特殊な遺伝子を持つだけのただの青年だ。
「フェイトさんはそこに座ってください」
 アイーダが指示してすぐに祈りの体勢に入る。
「この場に集いし、意識ある者たちよ。皆の同朋を救うため、ひとたび私に力を貸し与えたまえ」
 すると。
 たくさんの墓の上に、ぼうっと、青白いカタマリが浮かび上がってくる。これだと自分でもよく見える。
 何百、何千という墓に、何百、何千という青白い御霊。
(幻想的な光景といっていいのかな)
 フェイトは何も言わず、ただ見ている。
「私は、あなた方の苦しみを解き放ちたい。ですが、そのためにはこのアリアスに呪いをかけているゴーストを打ち払わなければいけません。力をお貸し願えますか?」
 そして、気づけば。
 アイーダの姿が変わっていた。目は紫に、髪は長く。
 そう、ゴーストハンターとしての力を発揮するときの彼女の姿に。
「この方は、あなた方を解放することができる方です。先日、一人の少女が解放されたのを覚えてますか? あなた方の力をお借りすれば、ここにいる全員を解放できます」
 ゆらめく。ゆらゆらと、アイーダの言葉に御霊がゆれる。
「どうぞ、あなた方の力をお貸しください」
 最後にもう一言。すると、その青白い御霊たちが徐々に一箇所に、アイーダの手元に集まっていく。
 危険はないのだろうか、と不安に思うがアイーダの表情はいつもの通りで──いや。
 その御霊たちをいとおしむようで。
 その場にいた全ての御霊が集い、さらに一度輝きを増した後、その場に残ったのは、一筋の剣であった。
「神剣、布都御霊。ヴォックスとの戦いが終わるまで、フェイトさんに力を貸してくれます」
「ふ、ふつ?」
「フツノミタマ。この剣ならヴォックスの防壁を破れます。ただ、私には剣を使う力がないので、フェイトさんにお任せします」
「剣を使う力がないって、霊力が強いからとか?」
「いえ、ただ単に剣の技術がヴォックスには遠く及ばないというだけです」
 確かに。この小さな体で、あのヴォックスと五分に渡り合えというのは無謀な挑戦だ。
「後は居場所ですね。どこに行けばヴォックスがいるのか……」
「このアリアスのどこかに隠れているっていうことだったよね」
「ええ。それは間違いありません。それがいったいどこなのか」
「しらみつぶしに探すしかないのかな」
「そうなりますね」
 結局、もう一度このアリアスを歩き回ることになるということだ。
「ただ、近くまで行けば分かるはず。とりあえず外壁に沿って一周しましょう。そこから内に渦巻くように場所をしぼりこんでいきます」
「一番ロスが少ない動き方だね」
「はい。急ぎましょう」
 そして二人は走り出す。さっきまでひたすら走っていたフェイトだったが、疲労回復のおまじないのおかげで随分楽になっている。さらにはアイーダのペースに合わせて走るため、先ほどまでのようにがむしゃらに走るようなものではなく、軽いジョギングのようなものだ。
 だが、ヴォックスの気配はどこにも感じられない。フェイトが二回も近づけば、たとえどんなにうまく隠れていてもアイーダの目につかないはずがないのに。
「もう、日が昇りますね」
 一通りアリアス中を駆け回って、領主屋敷に着いたときには東の空が白み始めていた。
「太陽が昇っている間にヴォックスが出てくる可能性は?」
「難しいと思います」
「じゃあ、ファリンさんが日が沈むまで無事でいられる可能性は?」
「……」
 沈黙。それはつまり、もうファリンを助けることができないことを意味している。
「くそっ!」
「落ち着いてください、フェイトさん」
「これが落ち着いていられるか!」
「まだ探していないところがあるはずです。このアリアスの中に。私とフェイトさんが一緒に行かなかったところ。そして、ヴォックスがいても不思議ではない場所──」
「一緒に行かずに……」
「ヴォックスが……」
 二人の頭の中に、唐突に閃く。
「そうだよ!」
「何故それに気づかなかったのですか!」
「僕に言わないでよ、アイーダだって気づかなかったくせに!」
「とにかく今は急がないと!」
「ああ! ヴォックス、今度こそ息の根を止めてやる!」
「とっくに止まってます!」
 二人は駆け出した。領主屋敷の中に。
 そして、ファリンの眠る医務室に。
「ファリンさん!」
 中には誰もいなかった。ファリンただ一人、ベッドの中にいた。
「あ、フェイト……さぁん」
 目を開けていたが、うつろだった。
「来て、くださった……んですねぇ。よかった……もう、会えないと、おもいましたあ……」
「大丈夫だよ、ファリンさん」
 フェイトは右手でファリンの手を握った。
「今、助けるから。アイーダ!」
 アイーダは頷いて、右手を掲げた。
「不浄なる者よ『出でよ』!」
 それは強制召還の霊術。既に彼女の髪は長く伸びている。霊術モードだ。
 するとファリンの意識が失われ、急激に部屋の温度が下がる。そしてファリンの上に大きな霊魂が投出された。
「ヴォックス!」
「まさか、我が居場所を見破るとはな、小娘!」
 ヴォックスははっきりとした言葉を話した。光王とは違う。意識のはっきりしたゴースト。
「取り付いた相手の力を奪っていたのですね、ヴォックス」
「もうこれ以上、お前の好きにさせない!」
「できるか、小僧。このヴォックス、霊魂となって現世の武器が通じると思うな!」
「そっちこそ、僕の武器が現世の武器と思うな!」
 フェイトは武器を抜く。片刃のそれは、霊を切り裂くための武器。
「『防壁』を破れ、布都御霊!」
 フェイトが霊剣を一閃すると、ヴォックスの周りにあった『壁』のようなものが音を立てて壊れる。
「なんと!?」
 ヴォックスが驚いて飛びのく。そのまま窓から外へ逃げていく。
「逃がすか!」
 フェイトとアイーダも後を追って外に出る。一階でよかった。
 そして、
「『閉じよ』!」
 そのヴォックスが逃げ出していく方に霊の壁が出現する。生身ならなんなくすり抜けられる壁も、ゴーストは通り抜けることができない。普通の壁をゴーストがすりぬけて人間が通り抜けられないのと同じ原理。
「便利な技だね」
「そんなことを言っている場合じゃありません。効果は長持ちしません。ここで勝負をつけますよ、フェイトさん!」
「もちろん! ディバインウェポン!」
 その霊剣、布都御霊に、さらにフェイトの紋章遺伝子の力が上乗せされる。
「お前の意識の一片たりとも残さないぞ、ヴォックス!」
「くっ。ならば、我が全力をもって叩き潰すのみ。ゆくぞ!」
 生身のときと違い、ヴォックスは竜に乗っているわけではない。正々堂々、一対一の戦いだ。
「くらえ!」
 フェイトが一閃。だが、ヴォックスも武力でアーリグリフを上り詰めた人物。そうやすやすと剣を受けることはない。
「疾風斬り!」
 生身のとき以上のスピードで切りつけてくる。速い。
「ぐっ!」
 なんとか致命傷を避けるように回避したが、体中から血が吹き出る。
「鋼斬破!」
 さらには素早く振り下ろした武器から放たれる衝撃破がフェイトを襲う。
「ぐあっ!」
「とどめだ!」
 もう一度疾風斬りで飛び込んでくるヴォックス。だが──
「『弾けろ!』」
 アイーダの術がヴォックスにダメージを与え、その勢いを弱める。
「いまだ! ヴァーティカル!」
 下から布都御霊で切り上げて、もともと浮いているヴォックスをさらに浮き上がらせる。
「エアレイド!」
 そして振り下ろした剣から光弾が放たれ、ヴォックスの体を貫いていく。
「がああああああっ!」
「とどめだ、アイーダ!」
「言われなくても」
 長い髪が逆立つ。アイーダはその最強奥義を放った。

「『滅びよ』!!!」

 その御言で、ヴォックスの体は完全に消滅した。





「今回も大変な戦いだったよ」
 前回の光王も大変だったが、今回のヴォックスも大変だった。何しろ自分たちだけではない。ファリンや他の仲間たちの命も背負って戦っていたのだ。
「また追い払っただけ、っていうことはないよね」
「はい。今度はきちんと除霊しました。完全に消滅しています」
「じゃあ、もうファリンさんは」
「体力を回復するまで時間がかかるでしょうけど、もう大丈夫だと思います」
「よかった」
「ええ。私もほっとしました。ファリン……様があんなふうに弱っているのを見るのは、少々心苦しいです」
「元気だけがとりえだからなあ、ファリンさんは」
「そんなことはありません。ファリン……様は、優しい心の持ち主です」
「そう思うよ。いつも元気をもらってる」
 ふう、とアイーダはため息をついた。
「まったく、私もファリン……様も、どうしてあなたのような人に惹かれてしまったのでしょうね」
「ファリンさんはともかく、アイーダがどうしてなのかは自分で分からないのかい?」
「ええ。少なくともフェイトさんのことは嫌いではありません。【人】は信じられませんが、フェイトさんは信じてもいいかなとは思います」
「えらく昇格したもんだね」
「誠実な人であるというのは分かりますから」
 やれやれと言わんばかりの様子だった。
「ところで、さっき言ってた『除霊』っていうのは『浄霊』とは違うの?」
「全然違います。浄霊は御霊が望んで天に還るもの。除霊は嫌がる御霊を強制的に追い払うことです。浄霊が道案内なら、除霊は人殺しみたいなものです。いつもそうですが、気分はよくありませんね」
 道案内と人殺しでは確かに全然違う。自分たちから見れば同じように天に還ってもらうだけのことなのに、還される側からするとまったく違う意識ということだ。
「フェイトさんは女の子を浄霊してさしあげました。あれはいいことです」
「でも、今ヴォックスを除霊したのは」
「ヴォックスにとっては苦しかったでしょうけど、ですがヴォックスが他の人たちに迷惑をかけていたことは事実。できれば除霊という方法はあまりとりたくありませんが、でもしなければいけないことです」
 ゴーストハンターというのは厳しい仕事だ。
「私の仕事なんてほとんどが除霊です。それを考えると、浄霊の力を持つフェイトさんが本当にうらやましい」
「そんなこと言われても」
「ああ、それから。ヴォックスもいなくなったことですし、この布都御霊も浄霊しなければいけません。フェイトさん、協力してください」
「え、あ、うん」
 フェイトは言われるままに剣を握る。そしてアイーダもその剣に触れた。
「ご協力、ありがとうございました。あなたたちのおかげでみなさんの仲間が救われます。どうか向こうへいっても安らかに」
 そして浄霊の文言を唱える。
 フェイトはその剣に向かって、一言だけ伝えた。
「ありがとうございました」
 すると、剣が自分の意思で勝手に震えたような気がして、その直後に剣は光となって消えた。
「本当に……」
 それを見て、アイーダは綺麗な笑顔を見せた。
「あなたは素敵な人です。フェイト・ラインゴッド」
 それが褒められているというのが分かったフェイトは、少しだけ照れくさかった。





 朝日と共にフェイトとアイーダは戻ってきた。
 すぐにファリンに会いにいくと、そこにはルージュはアストールもいて、もうすっかり元気を取り戻しているファリンの姿があった。
 体力を取り戻すには一週間から十日近くかかるそうだが、それでももう命の心配はない。
「じゃあ、アイーダが解決してくれたんだね?」
「そうです」
 フェイトがはっきりと答えた。
「でも、どうやって解決したかは教えてくれない、と」
「まあ、後でネルにだけは報告しますけど。ちょっと人前では話せないことなので」
「ま、いいけどね。解決してくれたっていうんならアタシたちにとっては願ってもないことさ」
 そしてルージュがアイーダの方を向く。
「ありがとう、アイーダ」
「いえ、私は」
「この事件でアタシは十人からの部下を失った。解決してくれて、本当に心から感謝している」
 そう。
 フェイトが求めていたのはこれだ。アイーダはアイーダができることをしっかりと行っている。だからアイーダにみんなから感謝してもらいたかった。それだけでフェイトは満足だった。
「私は本当に、フェイトさんのお手伝いをしただけです」
「逆だろう。僕がアイーダを手伝ったんだよ」
「フェイトさんがいらっしゃらなければ、解決はできませんでした」
「じゃあ僕だって同じだ。最終的に僕一人じゃ何もできないんだからね」
「つまり、二人で解決されたということですね」
 アストールがまとめる。
「そうなるのかな」
「……甚だ不本意ですが」
「む〜、何か二人だけで通じ合ってるのって、ずるいですぅ」
 ファリンがむくれる。
「でも、アイーダ。本当にありがとう、助けてくれて」
「いえ」
「でも、一つだけて言っておきますけどぉ」
「?」
「フェイトさんは、絶対に渡さないんですからぁ!」
 ライバル宣言。もっともその願いがかなうことはまずないと思われる。
「いや、僕はファリンさんのことそういうふうには見られませんから」
「即撃沈!?」
「ま、そうだろうね。フェイトは普通の恋愛ができないみたいだし」
 と、何か意味ありげなことをルージュが言う。
「どういう意味ですか?」
「え、バラしていいの?」
「ですから、何を」
「だってフェイトくんって、女より男の方が好きなんでしょ?」

 ──何故そうなる。

「いやだって、【土】のレンジといい仲だった……んでしょ?」
「なんでそうなりますかあ!?」
「だってねえ、レンジの求婚を受けたわけだし」
「求婚!? 僕が!? っていうか僕、レンジさんに会ったことないし!!!!」
「いや、この間渡したアレ、プロポーズを受けるってことなんじゃないの?」
「ああ、だいたい分かってきました」
 アイーダが頭を抱える。
「どういうこといったいどうしてそんなことにWHY!?」
「いや、フェイトさんが受け取った師匠の施紋ですが」
「あれが何!?」
「あれ、構成員同士でよく行う、愛の告白に使う施紋なんです。永遠の愛を願うときに願掛けとして使う施紋なんですが、師匠もそんなのを鍵に使うなんて、本当におふざけがすぎます」
 つまり、何か。
 あれを受け取ったとき、自分はレンジからの求婚を受けたことになる、と?
「そういう意味じゃ……なかったの?」
 ルージュがおそるおそる尋ねる。
「ご……」
「ご?」



「誤解だあああああああああああああっ!!!!!!!!」





 これは、ゴーストハンター・アイーダとその協力者フェイト・ラインゴッドの物語。
 第一幕は、ひとまずこれにて。


−Fin−


執筆者:静夜